第43話 テワオルデとマリ
テワオルデさんは腕を組み、待ち構えている。マリは右手を肩まで上げ、剣を取ろうとしていた。
俺は2人を見ることしかできなかった。
「どうしてこんなに遅くなったのでしょうか。そしてその少女は?」と、テワオルデさんが尋ねてくる。
「すみません。こんなに遅れてしまって。実は村の人から依頼がありまして、そこに出没するモンスターを倒していたんです」と正直に説明。あとはこの少女のことだ。
「それは素晴らしいことをされました。では、そこの殺気みなぎる少女は一体どちら様でしょう」ゆっくりとした話し方だが威圧がある。元軍人で名の通った人だ。少女から出てくる殺気がわかるのだろう。いつもの雰囲気ではない。
うそでどのくらい誤魔化せるか分からない。マリを見るといつでも攻撃出来る体制だ。彼女は元々魔人の王で、今は呪いにより少女のような格好をしている。今の状態でこの力だと本来の力は一体どのくらいあったのだろう。攻撃が始まるとテワオルデさんを一瞬でやってしまうのだろうか。時間を空けるわけにはいかない。覚悟を決めて偽りを話す。
「彼女はハンターの子供らしく、村にいました。両親はモンスターに殺されて1人で戦おうとしています。後ろにつけている剣は両親のものなんですよ。自分はどうしても見逃すことができずに助けたいと思いました」
「それは彼女が話したことですか?」
どういうことだ? 何かを怪しんでいる。しかし、うそを突き通すしかない。「はい。彼女が話しました。両親を亡くしたショックで口数は少ないですが」
マリも無言だが
「そうですか、彼女は強いハンターになれるでしょう。両親を殺されたショックは反動となり強さになる」
そういうとテワオルデさんはゆっくりとマリに近づいていく。緊迫する。どちらが先に手を出してもおかしくない。テワオルデさんは彼女を本当に疑っていないのか、マリはこの緊迫に耐えきれずに剣を持つのではないか。
そう思っていると、テワオルデさんはマリの前で座り身長を合わせた。
「声は出せますか? 辛かったでしょう。信用出来る施設に預けることもできます。無理してハンターになる必要なんてないですよ」と、いつもと同じ語調で優しく話しかけた。
「パパと一緒にいる」
「パパ?」テワオルデさんが訪ね、俺と目が合う。すると「ウエノ様。なつかれているようですね」と笑った。
家の中に入り「さて今日はどうしますか」と聞かれる。
「もう遅いので、休むことにします」
「部屋はどうなさいます」と尋ねてくる。そうだ、マリをどこで寝かすかが問題だ。確か他に部屋は空いていた。別々の部屋で寝ますと、言おうとした矢先「パパと一緒がいい」とマリが言った。
背中に冷たいものが走り、冷や汗が出る。どうにかして断らなければ。
「そうですね。両親を亡くしたばかりで1人は寂しいでしょう。どうでしょう。ウエノ様、一緒の部屋でよろしいですか?」とテワオルデさんも信じきっている。
どうするミラクル? 何か断る方法はないか。
『絶対に同じ部屋で寝てはいけません。マスターが寝た時に必ず襲ってきます。殺気で寝ることが出来ずに不眠症となるでしょう』
不眠症はすでになっているんだが、あなたの美声のおかげで。それは今はいいのだが断る方法はないか?
『ありません』
何でだよ、AIなら答えを導いてよ。
『小さな子供1人に寝かせるなんてテワオルデさんは
仕方がない。不眠症を選ぶか。
「分かりました。俺が彼女の面倒を見ると言った以上、一緒の部屋で大丈夫です」
「そうですか、ベッドは用意しますか?」
「パパと一緒のベッドがいい」
「それは絶対ダメです!」あまりの恐怖に声が大きくなる。
テワオルデさんは少し驚く。
「そ、それはどうしてかというと。親子といっても、やはり、まだ村で会ったばかりです。そのような分別をつけるのも子供にとっては大切かと思います」
「なるほどそうですね。分かりましたベッドをご用意します」
ホッと胸を撫で下ろす。
マリは俺にしか見えないように舌打ちをした。
部屋にはベッドが用意された。
マリは「お前、なぜ俺と離れようとする」と言いながら、どこから持ってきたのか大量のぬいぐるみをベッドに並べ始める。
「い、いや。流石にさ。なんかね。初めてだから」と訳のわからない弁解しかできない。単純に今まで俺を殺そうとしていた魔人となんて一緒に寝れるか! と言いたい。
「何が初めてなんだかわからないがまあいいだろう。俺も狭いのは嫌いだからな」と、大半をぬいぐるみで占領されているベッドに小さな体を入れる。見たことのないド派手なキャラクター枕に頭を乗せる。そして備え付けのブランケットを掛けた。
横で見ていたが何と無防備な魔人だろう。すでに寝息を立てている。
この魔人はぬいぐるみやキャラ枕が好きなのか。本当におかしな奴だ。
どう思うミラクル?
『寝ていると思います』
そうだけど。
電気を消して布団に入る。この布団は俺のために用意してくれたものだ。過去の記憶がよみがえりなんだか落ち着く。隣に極悪人が寝ているのも関わらず、睡魔が襲ってくる。暖かい布団の中で徐々に意識が沈んでいく。
…………。
『とーきになみだもーながれおちーるけーどぅー♪』頭の中で軽快な歌が響く。
やっぱり始まるのか。
『つよさーはここーろにやどるーぅー! ふあーんとたたかいーながーらー、あーなーたーのゆめをーおいーかけるー♪ (コーラス) みらーくーるー! すたーらーいとー♪ ゆめみーー』
「うるせー!」
ビクッとなり起こされたマリは飛び上がり「何だいきなり、貴様!」と怒っている。
「ごめんなさい」
「次に突然大声を出したら、首から上はないからな! 本当に気持ちの悪いやつだ」と怒りながらまた寝た。
結局、俺は今夜も魔弾を作る。
『りーのせんし♪ みーらくる・すたーらいーとー♪ きぼーーをだいしーめーてー♪ またたくーほしぼしがしめすみちーーここーろーのこえをーしんじてーぜんーしーんしようーー♪』
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