第42話 パパ
「まあ何だ。魔人と言ったのは冗談だからね」と舌を出しながらマリは言った。
いまさら、この少女は何を言っているんだろうか。
「どういうこと? どう見ても魔人並みの力だし、流石にいまさら
「そっか、やっぱり殺すしかないか」とその可愛い声から似合わない言葉をポツリとつぶやく。
俺は顔を青くして「魔人が冗談だっていうのは知ってるよ。マリは普通の女の子でしょう」と慌てて言い直した。
「ん? そうか、分かってくれるならいい」
良かった、と胸を撫で下ろす。そう言えばこの少女、ステータスで唯一かしこさは低かったな。
すでにテワオルデさんの家は見えていた。深夜2時くらいにはなっているだろう。いつもならミラクルの詠唱を
「では、俺のことはモンスターに襲われた村の孤児と言ってくれ。お前は俺を引き取った心優しいパパというわけだ」と、マリは催促する。
パパとか言い出してるぞ。これは、長くついてくるパターンではないのか。だが反論する余地はない。
「分かった。何か理由がなければいけないからな。ハンターという肩書きは消すのか?」
「元々ハンターではない。あの村から飯にありつくための嘘だ。村人皆殺しにするよりはマシだろ」と、幼い顔をはにかみながらそう言った。きらりと白い歯が光る。
顔はこの上なく可愛いのに言ってることは極悪だ。「そうだな」と一応相槌をする。
マリは「俺は東方群星連合中央連邦情報局と特殊研究宇宙域平和維持軍、さらには帝国軍や全宇宙群星連合保安機構から追われている。だから名前も自分の正体も人に明かすことはできない」と明かす。
やはり、ミラクルの話は正しいと思う。間違いなくこの魔人は
「ではなぜ、俺と出会った時に正体を明かしたんだ?」と聞いた。
「これから死ぬ人間に話しても問題ない」と、あっさりと言う。
「そ、そうだな」やっぱり殺そうとしてたんだな。どうやってこの極悪少女から逃げるか考えないといけない。だけど、テワオルデさんに迷惑はかけられないから、できるだけ家から離れたところで逃げよう。
「逃げようとしても無駄だからな」と銀色の髪を光らせこちらを向いて微笑む。
だから、顔とセリフが全然あってない。
マリは続けて「お前は俺の正体を知っているし、そこそこ強い。ハンターのくせに欲も少ない、プライドも無いから何でも言うことを聞く。正義感も自分を犠牲にしてまで悪を倒すという感じもない。共に行動するのに非常に都合がいい。だから……ずっと一緒だよパパ」と、最後だけ可愛く声色を変えニコッとしている。
パパ? 可愛いとうっかり思ってしまったが会話の内容は最悪だ。こんな魔人と一緒にいたら命がいくつあっても足りない。もし、自分のことが不要になったら、すぐに消すのだろう。
しばらく無言だったミラクルが話しかけてくる『もう遅いですよ、彼女はマスターに追跡の印を付けました。取ることはできますが最短でも37日はかかります。その間、逃げ切るのは不可能でしょう』とため息をつきながら話す。
おいおい、何とかならないですかミラクル様。魔法の力を使って頼みます。こんな生き地獄耐えられないです。
『マスター、今は魔法の力は使えないのですよ。ごめん。でも、魔法の力が戻れば、すぐにでも解除できます』と自慢気に言う。
あっそ、出来ないなら何の役にもたたん。この虚言症のAIからも離れたかったと思い出す。そう思った瞬間、頭に激痛が走る。
頭の激痛に耐え切れず、うずくまり「分かったって! ごめん」と思わず声を出す。
その声にビクッとしたマリは「どうしたんだお前?」と驚く顔を見せる。
「いや、何となく声を出したくてさ。たまにあるんだ」と苦しい言い訳をする。
「気持ち悪いやつだな」と嫌な顔を見せる。
魔人に言われたくはないと思ったが、口に出すのはやめておいた。
テワオルデさんの家の前に人影が見える。テワオルデさんが俺たちが帰ってきた気配を感じたのか待っている。だがその顔は険しく見えた。
マリはその気配に気がついたのか、腕を上げ剣へと手を伸ばそうとしている。
俺はこの緊迫する状況に震えた。
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