第21話 作戦開始


 その話を終えて1人部屋で考えていた。

 

 一人きりになると不安と焦燥が心を支配する。本当に無事に脱出できるのだろうか。思わず頭を抱えて、膝を揺らした。もし、脱出中に発見されたら……命を失う。


 そんな弱音を吐いては駄目だ、彼女も真剣に、脱出のために。

 命を賭けて進めているんだ。……抱き合いキスをした時を思い出す。


 命を賭けて……、横腹をさすったり、常にベタベタ自分の体を触ってくるのも思い出してしまう。


 命を……、そして、その紅潮した怖い笑顔で「なんでもしていいって言ったよね」と言った顔を思い出す。


 命を……掛けているのだろうか。

 

 リラさんは何とも掴み難い人だ、無情で淡白にも感じられるし、少女の一件のように感情を激化することもあるようだ。そして一瞬垣間見たリラさんの記憶。彼女の視線は時として切れるほど冷たく、また突如として説明しながらの馴れ合いスキンシップを求めてくることもある。猫のようだなとも思った。

 彼女のことを考えると胸が締め付けられる。


 翌日、行動は朝早くに始まった。

 

「準備はいい? これから音声を改変させるのは難しいから、その場に合わせた言葉を選んで話してね」

 

「は、はい」

 

 これから、脱走計画が始まると思うと、気が引き締まる。そんな中でも昨日のようなスキンシップはもうないのだろうかと考えてしまう。

 淡い期待を胸にしていることを知ってか知らずか、後ろを向き、ささっと扉に向かっていく。


 だが、扉の前で振り返り。

 

「恋愛関係を認可してもらったわよ」


 顔を赤くして話す、リラさんが可愛かった。

 それよりも、そもそもそんな事を公表しなければいけないんだなと思った。。自分は被験者なので恋愛するために許可が必要なのだろうか。

 

「何、何か感想はないの? こんな超絶美女と付き合えるなんて仮とは言っても滅多にない事よ」

 

 顔を近づけ迫ってくる。嬉しいが何だか怖い……圧がすごい。今まで彼氏が出来なかった理由がなんとなく分かった。

 

 手の甲に触れてくる、そして唇を重ね合わせる。

 

 少しの時間だが長く感じた。一瞬だったと思う。恥ずかしさを振り払うようにリラさんはすぐに進み始めた。

 

「さあ、作戦開始よ」


「はい!」

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