Episode 139 包み隠さずに有りの侭で。


 ――その世界は広がる。この扉の向こうだ。すると、ポンポンと叩かれる肩。



 振り返ると、


「来たね」と、一言。糸子いとこではなく「星野ほしのさん……」とは言っても、この学園には星野という名字の女子は、少なくとも三人はいるから「葉月はづきだよ。僕も君のことをそらって呼ぶから」と、いうことになった。チャリ……と輝く鍵。葉月の手から紐でぶら下がって、


「ま、入るんでしょ。ということはOKなんだね、モデルの件」と、訊いてきたの。


「まあ、興味があったし……」と、囁くような返事となったけれど、


「その子は?」「見学したいって。私の大親友だから」と言った直後、葉月はじっと食い入るように見たの、糸子のことを。制服の上からでも、穴が開きそうなくらい……


 或いは溶けそうな程かな? するとフムフムと、頷きながら「成程ねえ」と聞こえるか聞こえないかの、それこそ囁くような声を発してから、葉月はニンマリとして、


「じっくり見学しててね。わかるよ、君も同じなんだ。空に興味があるんだね」


 と、喜びの声に近いような感じだった。


 そして距離感も近い。糸子とほぼ密着するくらいに、お顔を近づけているの。


「あ、あの……」


「君は?」「戸中となか糸子」「じゃあ糸子、見せてあげるね、包み隠さずに空のこと。隅から隅までね」「……まさかとは思うけど、本当に」「だから包み隠さずにだよ。糸子は見学だからそのままだけど、空は承諾してるから、早速だね」と、ポンポンとまた……


 肩ではなく、今度は背中を叩いた。


「ちょ、最初から……なの?」と、お顔が熱を帯びるのを感じながら訊いたの。


「そうだよ、最初から。アトリエに入ったら全部ね。僕も同じだから。見てるのは糸子だけだし、大親友なら全部見られても問題ないでしょ。それを彼女は求めてるの」


 雪なら意図も簡単に溶ける程、間違いなく赤くなったお顔。多分全身にまで……


「なら、全部見て。私という女の子を。卜部うらべ空っていう女の子を」と、声にしたの。



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