Episode 105 メリーゴーランドは誘う。


 ――イルミネーション輝くメリーゴーランド。奏でる一昔前のラブソング。



 回れ回れと囃し立てる、バイオリンの音色。奏でるのは陸君りっくん……


 回るのは私。回るメリーゴーランドに搭乗しているから。乗っているのはお馬さん。幼き日のことを思い出した。陸君も一緒に乗っていた。お姉ちゃんもまた……


 あの頃に戻れるのなら、したいことは満載なのかもしれない。


 お姉ちゃんのしたいことだって、容易に見つかりそうだから。次の機会にお誘いしようと思う。そう思った時だ。スーッと姿を見せる、椎名しいなのオジサンと春日はるかさん。


 それまでの気配はなく、いつの間にかそこにいるという感じの登場だった。


 どう反応して良いのか?

 どう声を掛けさせてもらったら良いのか? その答えは風の中へ秘められ、


「ヤッホー、来たよ。元気にしてた?」と、冬近くなのに、まるで向日葵のような笑みを見せる春日さん。それにそれに「そらちゃん、それ面白そうだね、コーヒーカップ。それとも絶叫マシーンがお好きなのかしら?」とも付け加えながら、迫る迫る迫る。


「それ多分、お姉ちゃんの方が得意かも。是非誘ってみて」と、私は返した。

 姉思いの優しい妹。ちゃんとお姉ちゃんが興味の持てるもので……「あれれ? かいちゃんって絶叫マシーン得意だったっけ? りくの話だと、海ちゃんは昔それで……」と春日さんは繋げる。ふと蘇る記憶。そうトラウマなのだった。上からも下からも大泣きして。


 ……でも、それって今も?


「まっ、まずはメリーゴーランドからかな。今度また遊びにおいでよ。とっておきの観光写真でお出迎えしてあげるから」と、ご機嫌もご機嫌の椎名のオジサン。どうやらここが転勤先の職場のようだ。噂によればイラスト付きの写真が話題になっているそうなの。


 その技術は、また私の手にはない。


 写真部にも欲しい技術だから、是非とも学ばせて欲しいものだ。……ともあれ、本格的な始動は十二月に入ってからだそうだ。まずはXマスを目指している、最大売り上げ。



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