第二十章 ウララカなこと。

Episode 096 見守り見守られ。


 ――親は子を。子は親を。


 ウメチカさんは静かに語る。この白く広がる世界の中へ。



 ごく最近のことだった……


 ウメチカさんが病院に来た日のこと。紹介されて、この病院に精密検査を受けに来た日のことだ。聞こえてきたそうなの、診察を待っている患者の中に、椎名しいな春美はるみさんという名前の人がいること。……呼ばれていた、マイク越しに。後ろ姿を見たそうだ……


「確かに、そう聞こえたの」と、ウメチカさんは念を押すように強調した。解釈の仕方によれば諄いとも言えるのだけど、ウメチカさんは懸命に伝えようとしている……


「入院してるの? この病院に」と、お姉ちゃんが訊く。私や陸君りっくんよりも一足お先に。


 すると頷く……


 コクリとウメチカさんは頷いた。陸君の表情は変わった。崩れるポーカーフェイス。


 その時だ!


 ノックの音と共に、担当医が現れた。渋くも渋い先生。名字が渋井しぶいだから。名札を見れば一目瞭然。その陰からスッと姿が見えた。女性の姿。年配の、五十歳くらいの……


 入院患者。その服装からして。


 もしかするなら、もしかするかも。意を決し、訪ねようとしたら、


「陸君、卜部うらべのオジサンに頼まれていたんだ。調べさせてもらったよ、君から採取したDNA。そして、この人が、君のお母さんということが確認できたよ」

 と、明かされた新事実。或いは真実……


 遠い存在と、嘸かし思っていたことだろう。驚くべき偶然? 同じ病院にいたことで判明した、何らかの悪戯? きっと素敵なくらいの、再会と思えて……


 想い出は溢れる? 陸君にとっては、記憶に残ってない母の顔……


「お、お母さん……」


 それでも零れる、子が母を求める言葉。今生の思い出に残る、名場面だった。



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