Episode 094 急行する病院へ。夕闇を駆ける。


 ――また今度。と別れを切り出した私。ウメチカさんとは後日に改めてと告げた。



 まるで無重力。足が地に着かないようなイメージ。


 時の流れでさえ、わからなくなりそうな、そんなイメージ。芸術棟を後にし、お姉ちゃんと共に駆ける学園の敷地内。正門付近にパパがいて、車に乗り込んで出発だ。


 緑の中を走り抜ける。


 夕闇に覆われ、夜との境の風景……

 到着した病院。お姉ちゃんと私、パパまでも急ぎ歩き。七階の一人部屋……


 そこにいた看護婦とベッドの上、上半身を起こしている陸君りっくんがいた。虚ろとしている表情の中にも、笑みを浮かべていた。「どうだ、具合は?」とパパは尋ねる。私は言葉を見失ったまま、お姉ちゃんと共に立ち尽くす。お姉ちゃんが血相を変える程だから、身構えて此処に来たのだけれど、意外も意外で、陸君は元気な様子を見せていた。


 少しばかりの穏やかな時間。現れた病院の先生。



「……そうですか。それではこの子を。少しばかりお話が……」


 と、病院の先生……陸君の担当医は言って、パパは「私が行ってくるから、かいそらは陸君の傍にいてあげて」と席を外し、担当医と一緒に。やがては三人だけに。


 私とお姉ちゃんと陸君。


 暫くは沈黙が続いたけど、語らいの場。話し声で色づき始めた、この白いお部屋。


「陸君、ウメチカさんが来てね、写真部に。実は、陸君のママのこと……」


「知ってるのか?」


「ちょっとした手掛かりかな」


 すると、お姉ちゃんは、


「空、その話の続きだけど、私が連れてこようか? 陸君も一緒がいいよね? この病院は意外にも、お家から近いみたいだし。いつでもこれそうだから」と、言ったの。



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