Episode 093 写真が語ること。一人より二人。


 ――初めは一人から。そこから繋がってくる、写真を見てくれる人。



 一人から二人……


 飾られている写真たちは語る。繋がりゆく物語を。喩えるなら私たち。写真たちの中に見る、共通したお知り合い。その物語の中で出会った、春を呼ぶ女の子だ……


 何故そう思ったのか?


 ウメチカさん自身が訊ねたから。記憶に残る、とある民宿のような温泉宿を。


 そこで出会った女の子こそが、私とウメチカさんの共通する人物だそうなの。そしてそして握っている、その女の子のお母さんの行方、その情報を。もしかするなら、結び付く答えをも握っているのかもしれない。とても重要な瞬間だ……


 その女の子、春日はるかさんのお母さんこと。


 今何処にいるのかを、知っているのかもしれないの。名は春美はるみさん。陸君りっくんのお母さんなの。陸君は捜している。そのために、私と一緒に北陸からこの地へ来たの……


 だとするなら、写真部を設立してグッと、手掛かりに近付いたということだ。ウメチカさんが語る中に、この学園を訪れた……という目撃者がいるという。その目撃者は、何やら託されたという。ちょっとした贈り物? それとも、それとも……


 じきに訪れるという、その人物。


 贈り物を受け取ったという、その人物が。ちょうどその時だ、コツコツ……


 近づく足音。階段を上がる音だ。確実に近づいてきている。一日の纏めを行う黄昏時だけど、大いなる出来事が起きそうな緊張感。メイド姿という華やかな雰囲気とは裏腹に近づいてくる、目的達成に近付く、まるでカウントダウンのように。朝日を迎える前の、一日の中で最も暗い瞬間を連想させそうな、そんなイメージ。そして訪れた……


「空、行くよ、パパが迎えに……って、あれ? 千佳ちか、どうしてここに?」


 と、違っていた。来たのは、お姉ちゃんだった。今から病院へ。陸君が救急車で運ばれた病院へだ。陸君の容体は? お姉ちゃんの表情が物語っていた。血相を変え。



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