Episode 064 影分身? それとも変装? ザ・忍者?


 ――お話は続く。この白い壁のように何処までも。時間の流れも忘れて夢中に。


 その中で、


そらちゃん、帰り行こうか、僕のお家。見せてあげる、鉄道模型」

 と切り出したのはウメチカさん。しかも、なんと、いきなりのお家への誘いだ。


 飛び跳ねる。弾む心は全身で表現された。「行く行く絶対行く」と、声にまで。


「ありがと、ウメチカさん。それから『書くと読む』のウメチカだけど、ええっと、作品の方。第一回のウメチカ戦のお話から、私は、あなたのファンになりました。それからそれから続けていくよね? 私に大いなるキッカケを与えてくれたんだからね」


 それはウメチカさんが『書くと読む』で連載しているエッセイのこと。前に千回を迎えたら完結すると宣言していたから。因みに今は九九一回。もうカウントダウンだ。


 まだ続けて欲しいという願い。でも、それは私には決められないこと。決めるのはウメチカさんだから。御都合もあると思われるから……その答えを得る間もなく、


「空、ここにいたの。急にいなくなるものだから」

 と、お姉ちゃんの声。私は振り向いて、


「あ、ごめん、お姉ちゃん。ところで帰りね、ウメチカさんのお家に行くことになったんだけど、いいかな? あ、そうそう、お姉ちゃんも行く? ……って、あれれ? ウメチカさんが二人いる? でもでもでも、さっきまでお話してたのは、正真正銘のウメチカさんだし、例えば例えばね、ほらほら、陸君りっくんの変装だったりして……」


 と確信も確信。陸君の変装は天下一品だから、お姉ちゃんが私を驚かせようとして密かにサプライズを用意していたのね、きっと。だからこんなことしても……ギュッと、私はもう一人の方のウメチカさん。お姉ちゃんの横にいるウメチカさんの頬っぺを抓った。


 ほらほらほらほら――という具合に、ウメチカさんに扮した陸君の表情が崩れて「アタタタ」と悲鳴を上げるのを楽しみにしていたら、夏なのに何故か、でっかいスノーボールが落っこちたような衝撃を受けたの、頭の天辺で。――ゴチン! という効果音付き。


「痛―い!」と、私の方が悲鳴を上げて、両手で頭を押さえる結果となった。



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