Episode 047 傷が癒えた頃に、迎えるもの。


 ――膝を抱える日は続いたけど、風鈴が奏でる頃には、少しずつ日常は戻ってきた。



 二の腕の傷も少し痕は残っているけど、もうすっかり回復。……力も、パワーアップしていた。リハビリの効果? 一日でも回復したいという想いだったから。


 私が元気になれば、陸君りっくんも元気になれる。


 そう思って、お外へ繰り出した。そして、春日はるかさんも一緒についてきたの。


「健気ね、そらちゃん」という言葉も添付して。


「……陸君は、私のために……」と、私はまだ俯き加減。でも明るくいようと、笑みを忘れないようにと……「空ちゃんは気にしなくていいの。我が弟に喝を入れてやるから」


 と、春日さんは何故かハリセンを構えていた。あ、でもでも、ハリセンは関西が発祥の地では? と、心の声を解読したかのような趣で「甘い甘い、石川でも盛んだからね」


 と、北陸とは言わず、とうとう石川と言ったの。確かに、小松に向かっているから。


 明らかになる、今住んでいる地名。


 オブラートに北陸と包んでいたけど、石川県が今の舞台。そして鮮明になるものはそれだけではなくて、あの日の事件の行方。ブランド物のバッグに入っていたものは……


 盗難された宝石の数々。


 そして、その取引現場を偶然、私のカメラの一コマに収まっていた。私は知らない間に目撃者となっていた。それが証拠となり、男四人は赤い回転灯と共に確保された……


 陸君は正当防衛が認められ、罪には問われなかった。


 私の身形がそれを物語っていたから。しかしながら、もしあの時止めてなかったら、陸君は少年院に入ることになっていたそうだ。……本当に紙一重の差だったと、星野ほしの善一ぜんいち巡査長が語っていた。そう語りながらも、実のところは、この人の力添えが殆どだ……


 それはあくまで、風の噂。


 今日からはもう、新しい季節。この次に控えるミッションが私たちにはあるの。


 ――陸君と共に、大阪の学園に入るための編入試験がもう控えているのだから。




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