第十章 フツフツなこと。

Episode 046 ヒーローは、遅れてくるもの。


 ――カキッ! と、ぶつかり合う金属音。廃屋の冷たい闇に響く、その効果音。



「な?」と、陸君りっくんは声を漏らした。


「フフフ……」と、リーダー格の男は不敵な笑みを見せた。


 何が起きたのか? バイオリンに仕込んでいる鋼鉄の板は、確かに当たっていた。相手の胴……つまりリーダー格の男の胴を捉えていた。それが証拠に、斬れている黒の布地。


 その奥にキラリと、鎖が見えた。


 鎖帷子? そのような仕掛けだ。私は苦悶する中、歯を食い縛って引き抜いた。右の二の腕を貫通していた矢を。「アグッ!」と、悲鳴を漏らしながら。


 そんな私を見て陸君は、「そら、やめろ、無理するな」と言った。そして陸君は、バイオリンを床に落とした。ガラガラガラ―ン! と激しい音とともに。


 相手の、リーダー格の男の胸倉を掴んで殴った。バキッという効果音が響いた。


「テメエ、よくも空を」

 と、殴る蹴るの応酬。殺意を漲らせながら。とても、とても恐ろしく思えたの。


 陸君のこと……


 リーダー格の男は、もう反撃の術もなく……私はダッと駆け寄る、押さえる、陸君の振り翳す拳を、その腕を。震える声ながら「もういい、もういいからっ、もう止めて!」と叫んだ。涙さえも零しながら。しがみつく、陸君の身体に。全身で押さえた……


 崩れるように倒れる、リーダー格の男。


 その顔はもう腫れ上がって、血も……ふうふうと、陸君の息は荒く、目には涙が浮かんでいるように見えた。徐々に、徐々にだけど、我に返る陸君……


 静寂は騒めきへ。赤い回転灯と共にサイレンと共に、パッと脳裏を通り過ぎた出来事の後に、気付けばもう夕闇……コツコツと足音を立てながら、二人並んで歩く……


「空、俺まだまだだよな、ヒーローとして」


「ううん、私のヒーローは陸君だよ、とっくの前から……」



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