【女性用】海風のまにまに、君の方へ。【純愛】

(SE:波の音、小さくギシッとビーチサンダルの足音)


 あ……来た。

 ちゃんと、来てくれたんだね。嬉しい……ううん、なんでもない、よかったってだけ。


(SE:風が髪を揺らす音、波が少し強くなる)


 だって、朝、連絡したときちょっと迷ってた感じしたから。

「今日、海、どうかな」って送ったら、「暑いね〜」って返ってきたし。

 乗り気じゃないかも……って思ってた。


 でも……今、目の前に君がいるから、もうそれでいいの。

 夏の太陽がどうとか、潮風がどうとか、そんなのどうでもよくて――


 君と一緒にいられるなら、私、もうこの浜辺で埋もれて、並に流されて、消えちゃってもいい。


(SE:しゃがみこむ音、砂をすくう音)


 ……なんて、重すぎかな? えへへ。

 いや、でも、ちょっとくらい言わせてよ。

 せっかく今日、朝から水着迷って……最終的に勇気出してこの、ほら、ちょっと背中あいてるやつにしたんだから。

 見て。どう?……見ないの? ……え、恥ずかしい? そっかぁ……。


(小さく笑う)


 じゃあ、今のは聞かなかったことにして。

 でも、ほんのちょっとでいいから、心の端っこに置いといてほしいな。

「今日の水着は、君のため」っていう、どこかの誰かの乙女心。


(SE:波が近くなる、足音が寄ってくる)


 ……ねぇ、手、出して?

 ほら、海、冷たいよ。

(足音が止まり、波打ち際でチャプっと水がはねる)

 ……わっ、びっくりした? やった、勝ち〜。


 だってさ、私ばっかりドキドキしてるのズルいでしょ。

 朝から何回スマホ見返したと思ってるの。

「もうすぐ着くね」って君からLINE来た瞬間、私、世界で一番強くなった気がしたんだから。


(SE:少し静かな風)


 ――でね、本当はちょっとだけ、不安だったんだ。

 もしかしたら、君には他に"海に誘われたかった人"がいたんじゃないかなって。

 それを、私が先に言っちゃって、断れなかっただけじゃないかなって。


 ……ね、どう? そんなことないって、言って。


 ……うん。ありがとう。それ、ちゃんと信じるから。

 私は、君の言葉だけを信じるようにしてる。……最近ね。


(SE:少し波が遠のく)


 ほら、あっちに浮き輪貸してくれるところあるでしょ。

 でもさ、浮き輪って、あんまり好きじゃないんだ。

 なんか……すぐ流されちゃいそうで。


 私、できるだけ君の近くにいたいのに、

 浮き輪に頼ったら、君の方から離れていっちゃう気がして。


(砂をサラサラいじる音)


 あ、でも、別に泳げるわけじゃないんだよ?

 むしろ、水に顔つけるのめっちゃ苦手。

 バシャバシャされると、すぐ「うえっ」ってなるし。


 ……だから、君の手、借りるつもりだったの。最初から。

 今日ずっと、どこに行くにも、波にのまれそうになっても、

 君がいたら大丈夫って、思えるようにしたくて。


(風が一瞬強く吹き、髪がばさっとなる)


 ……なんか、こういうの、言いすぎかもね。

 いつもなら絶対言わないのに、海ってずるい。

 音がうるさいから、心の声までごまかせちゃうし、

 風が強いから、顔が赤くなっても陽焼けのせいにできる。


(少し黙る)


 ……ねぇ、どうして君はそんな顔してるの?

 優しくて、ずるくて、ちゃんと私の言葉を聞いてるってわかるその目。


 そういうとこが、好きだなって思うから、

 私、たぶん、今日ここに来る前から決めてたんだと思う。


(SE:シャツの裾を握る音)


 今日一日、君をドキドキさせられなかったら、諦めちゃおって。


 でも、どうかな?

 ちょっとくらいは、心、揺れてくれた?

 私のこと、少しは「女の子」って見てくれてる?


(SE:波が静かに寄ってくる)


 ……そっか。

 ……うん。ありがとう。

 それ、すごく、すごく嬉しい。


 もうちょっと、がんばってみてもいいかな。

 明日も、誘ってみてもいい?


 そのときは、今日よりちょっとだけ、君の隣に近づいてても――怒らないでね。


(SE:波の音だけが残り、フェードアウト)

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