新たな陰り

 私の布団が、ベランダに翻る。

 実験期間に一度も発生しなかった事態であった。


 トイレに行けるようになったと思ったのに、当分はオムツを寝る時に当てねばならない……

 しかもこの調子では、かつての特厚の残りや、二重当て等を考慮せねばならない。



 その時、下腹部から微かな尿意が這い上がってきた。


 久々のおトイレでの排泄だ。

 トイレに行けるというだけのことが嬉しくて仕方がなく、足早にトイレへ向かった。



 トイレに入ろうとした……が、何だかわからないひどい不安を覚えて、体の動きを止めてしまった。


 もう実験は終わったのだ。

 トイレに入って問題ないのだ。


 にも関わらず、恐ろしい物と向き会っているような恐怖を覚えていた。

 ドアノブを握る手ががたがたと震え出している。

 


「お母さん、どうしたの?

 がんばって、トイレはすぐそこよ」


 小学生になったリサがいつの間にか来ており、私を応援している。

 いつもは全力で抵抗している私が、自分から入ろうとしている姿を見せたのだ。


 だが、私はトイレに近づけない。


 思えば、いつもトイレに入るのは全力抵抗していた。

 最後のオムツ以外へのオシッコも、オマルだった。


 リサが家事を手伝うようになり、リサがトイレを掃除してくれていた。


 

 私が最後にトイレを見たのは、年単位で前の話だった。





 私は、ものすごく久々に、ショーツにジーパンを履いていた。


 それまで溜めこんでいたおしっこが勢いよく両脚の間から噴き出してはショーツに吸い取られ、それがまた溢れ出してジーパンを大きな滲みに濡らして内腿を伝わり、お尻の丸みに沿って床に滴り続ける。


 その様子をリサは、呆けたように、それとも何かにみいられたように、ただじっと見守るだけだった。






 私は、トイレが怖て、入れなくなっていた。

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