実ってしまった努力

「お母さん、おトイレ……怖いの?」


「……うん、ごめんね」


「大丈夫、いつか大丈夫になるから!」



 人間、為せば成るものだった。


 あれから、極力外出するようになった。

 オマルすらも無い環境を作った。



 つらくても、歩いた。

 手は我慢した。


 いっときは膀胱炎になりかけ、抗炎症剤まで飲んでいた。



 あとは、研究所から送らててきた催眠音声というものを頼った。

 毎日、夜。 寝る前に聞いた。


 力を抜く。

 そのためには、膀胱以外も緩めるという発想がなかった。


 ……当然だ。本来リサが正しいのだ。



 脱力の訓練を重ね、私はとうとう




 薬に頼らずオモラシ出来るようになった。


 なってしまった。





「は……ははは……」


「お……お母さん、大丈夫?」


 大丈夫じゃない……いや、大丈夫じゃないことが大丈夫なのか?


「大丈夫……あなたは……私が守るから」



「う……うん?」



 頭の中で、知らない誰かの音声が常にループしている。

 約一時間の音声を、暗記しきった。


 あとは、おねしょだけだった。



「い、一応量や回数は減ったから……

 水たくさん飲んで、でも糖尿病とかじゃないってお医者さん言ってたし……」



「大丈夫、大丈夫なの……」


「お母さん? 泣いてるよ?」





 大丈夫、あなたは私が守る。

 そのまま、私立の小学校に……大学にだってそのまま行けば、一流のに入れるから。



「あなた……私、出来るわ」



「お母さん、おトイレ……出来ないじゃない」


「……うん、そうね……」


 でも、出来たのだ。







「あ、ほら! やっちゃったじゃない!」


 オモラシサインの色が変わるのを、娘は見逃さなかった。

 そう、今は以前と違い、目視で解るのだ。


「あ……うん。ごめんなさい」


「何が出来るの……?

 もう、はやく取り替えよ?」

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