オムツ交換台
「……いや、嫌なの。
お母さん、一人で替えるから……ね?」
「お母さん、早く横になって……
あまり時間掛かると誰か見に来ちゃうよ」
私が何に嫌がっているか。
交換されるのもそうだが、更にもう一つ。
それは、おむつの交換台に横になることである。
今まで意識したことがなかったが、あったのだ。この寺には。
もちろん簡単な折りたたみ式ではない。
木製の、ベッドに近い形状のものだ。
真新しいバスタオルが敷かれ、その脇には娘が去年まで使っていたオムツのパッケージが置かれていた。
もちろん、娘の物なのはパッケージだけで、その中身は私のオムツである。
娘も今、オムツを履いている。
だがこれは当然本当に必要なのではない。
自分用と説明して、予め寺において貰っていたのであった。
予め、である。
私は昨日の夜にようやく準備を始めたのだ。
直前になってオムツの持ち込みであれこれ悩んでいる私とは違うのであった。
今日寺に着くなり、オムツを見せて「オムツが必要なのは自分」と、わざわざ見せて強調したのであった。
……私のために、大分苦労をしてくれていたのだ。
だが、それでも交換台を使うことには抵抗があった。
まず、小さいのだ。
少なくとも、この交換台の対象年齢は0~3歳と書かれている。
つまり、リサですらもうすぐ対象外となるのだ。
リサの身長は85cmと、平均より小さい。
体重も13kgぐらいのはずである。
一方私は、155cm。 同年代と比べ小柄だが、対象の身長の倍近い。
体重は……ゴホン。
……オムツを当てだしてから一気に減ったものの、それでも対象範囲を大きく超えている。
少なくともこの交換台に、私が乗る場合。
台にはお尻から腿のあたりだけを乗せて、背中は壁につけて上半身を起こすような姿勢でないと使えない。
本当なら赤ん坊のための台にお尻を乗せられ、下半身を剥き出しにして窮屈な姿勢を強いられるのは流石に屈辱だった。
しかも、いつ親族が来るかわからない、このトイレという空間。
だが……
「替えのオムツ、あげないよ」
そう、私の手元には、一枚たりとも乾いたオムツはない。
あるのは飽和した三枚と、無理やり押し当て使用した一枚のみ。
一方娘は、特大の幼稚園カバンに5枚……一枚は先程私が使用したが、今補充された。
そしてまだ十枚は入っているであろうオムツのパッケージ。
選ぶ権利自体、私にはないのだ。
幼稚園で、度々私のおむつを変えるリサの腕は……すでに実感していた。
「……なるべく、なるべく早く……ね」
「大丈夫、任せて!」
ゆっくり……ゆっくりと、体重の移動に気を使い、交換台に腰を掛けた。
ーーーグジュゥゥウ
ーーーギシィイ
「……ねぇ、やっぱりこれ、お母さんじゃ無理だから……ね?」
「大丈夫。大丈夫だから早く」
意識しなかっただけで、相当前からあった気がするこの交換台。
娘がオムツを使っていた頃に法事はなかった為、リサは使ったことがない。
いや……だいぶ昔、祖父が亡くなった時に、もしかしたら私が使った、そんな気がしてきた。
もちろん確証はないし、当時と違うものと勘違いしている気もする。
するのだが……
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