娘は園児代表、母は……


 園長が歓迎の言葉や祝辞を述べ、テープによる園歌の演奏があった。

 入園式は滞りなく進行し、やがて式次第は新入園児による挨拶の順番になった。



 いつ入場していたのかは分からないが、本当に娘が代表の挨拶をするようだ。

 少なくとも私よりは早かったようだが……


「みなさん、こんにちは!」


 恐らくカンニングペーパーであろう紙を見ながら、しっかりとした口調で読み上げる。


「私は早崎リサです。

 春の陽気が心地よく、青空が広がる晴れやかな日に、たくさんのお友達と一緒に――

 そして、大切なお母さんとも一緒に幼稚園に入園することができて、とっても嬉しいです!」


 また保護者席がざわめく。


「今、一緒に入園ってあの子言ったの?」

「ということは……あの大きい園児が母親なの?」

「オムツに書いてあった名前も早崎だったわ」

「確かに似てるような……でもうそぉ……」

「子供のほうがしっかししてるじゃない……」


「〜〜〜!!」


 聞こえる。聞こえてしまう。

 屈辱は耐え難く、顔はこれ以上赤くなる余地が無いようにもみえた。


「入園式の代表として、新入園児のみんなの気持ちを代弁させていただきます。

 まず、お母さんに感謝の気持ちを伝えたいです。この春の陽気の中で、いつも私を支えてくれて、大切な時間を共にしてくれてありがとう。

 お母さんの愛情があったからこそ、私はここまで成長できました」


 

「これからの三年間は、先生や同級生、そして年長さんたちと一緒に楽しく学び成長していきたいと思っています。

 春の陽気に包まれながら、みんなにとっても素敵「きゃっ!『ガタン』」……え、何?」



 会場が動揺に包まれた。


 突如新入園児の席で、園児が数名立ち上がっていた。

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