高額報酬の代償
「本当に……一日でこれほどの報酬に、娘の幼稚園まで付いてくるのですか?」
「えぇ、もちろんです。
我々の実験に付き合っていただけるのであれば」
高校時代の後輩に、医学部に進み今でも仲の良い友人が居る。
その友人から紹介された、心理学の実験。
そこで提示された額は、大手企業の正社員でも届かないであろう0の数。
しかも、その期間中に娘の幼稚園まで付いてくる好条件。
それが何であれ、飛びつく他無かった。
この後、全力で私は後悔した。
でも、これしか無いのだ。
「ところで、心理学の実験と聞いていますが、一体私は何を……?」
「おや、早崎さん聞いていないのですか?」
「はい。毎日レポートを提出するとしか……」
「では説明します。
我々の研究内容は【オムツを汚す幼児の心理】です」
5秒? 10秒?
何れにせよ、結構な間が空いた。
「…………え?」
ようやく絞り出した言葉は、この一文字。
理解が追いつかない。
「オネショが治らない子供の心理要因や、オモラシをしてしまった子に対する母親の接し方といった本は、お子さんがお生まれになられた時に読まれましたよね?
ここは、そういった幼児側の心理研究をする場なのです」
「……え……あの……私25歳で……オムツなんてしてないのですが」
「大丈夫です。
こちらで特別な利尿剤を処方します。
それに幼児の心理に近づいていただくため、「裕子さん」も「リサちゃん」と一緒に、幼稚園に入園していただきます」
理解出来なかった。
いや、理解を頭が拒んでいた。
「ふざけないで!」
「いえ、ふざけていません。我々は未来の育児の為に、真剣に研究に取り組んでいます」
「私が、娘と一緒に幼稚園に入るなんて、出来るわけ無いでしょう!」
「大丈夫です。この大学の系列の幼稚園ですので、話も通っています。
……それに失礼ですが、これ以上の条件は他ではないと思いますよ?」
「だからって……」
「まぁ、お察しの通り、だいぶ前から募集をかけていたのですが、この内容を聞くと皆さん帰られてしまいましてね……
だからこそ、我々も限界ギリギリまで良い条件を提示させていただいておりまして、それでもこれなのです」
「……」
「実のところ、娘さんの幼稚園の方はおまけなのです。
この実験は成人女性の方がオムツを当てて幼稚園に入園していただくのが大前提でしてね。
娘さんは裕子さんの事情に鑑みた特別なオプションなのです」
「……」
「それに、幼稚園や保育園ももういっぱいでしょうし、お子さんを預けないことには働くことも難しいでしょう。
重ねて失礼しますが、大金が必要と聞いております。
どうか、お受けいただけないでしょうか」
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