第110話「謎の白い光」
「よし、脱げ」
「…………」
「どうした? 早く脱げよ雫」
転移の為には全裸になる必要がある。なので、俺は雫に脱衣を命じたのだが……何故かこいつは動こうとしなかった。
「いや……わかってるけど言い方がさぁ……」
雫がなかなか脱がないので、俺は先に自分の衣服を脱ぎ捨てて、下着のみの姿になった。
うむ、我が肉体に一切の恥じるところなし!
ラ〇ウのように右腕を高々と掲げながら胸を張ってポーズを決めると、雫はジッと俺の体を観察してきた。
「おおー……。お兄ちゃん、やっぱめちゃくちゃスタイルいいよね。私ももうちょっと胸があったらな~」
「お前はまだ中3なんだから、まだまだこれからだろ。ほれ、俺も脱いだんだから、さっさと脱げ」
「えー、やっぱり恥ずかしいよ……。……ん? ちょっと待って!?」
「どうした?」
雫が何かに気付いた様子で、慌てて俺に詰め寄って来る。
「お兄ちゃん、委員長と三上くんを転移で異世界に送ったんだよね!? 委員長はまだいいとしても、三上くんと裸で20分間も手を繋いでたわけ!?」
その時の絵面でも想像でもしたのだろう。雫は凄い剣幕で俺の肩を掴んで揺さぶってくる。
「お、お、落ち着けって。この魔法を使ったんだよ」
肩に置かれた雫の手をゆっくりと剝がしながら、俺は魔法を発動させる。
「光よ! その輝きで我らの体を隠し給え――"ミステリーライト"!」
同時に俺はブラとショーツを脱ぎ捨てると、雫の前に仁王立ちする。
すると、俺の体の大事な部分が、輝く光によって照らされて見えなくなった。
「こ、これはアニメとかでよくある"謎の白い光"! 確かにこれなら全裸でも恥ずかしくない!! ……いや、恥ずかしくないか?」
ふふん、どうだ俺の魔法は? 実は今までも要所要所でこの魔法を使い、大事な部分をちゃんと隠していたのだ。
俺のことを、人前でもすぐに全裸になる変態だと思い込んでいた諸君はちゃんと反省したまえ。
……まあ、稀に使い忘れたりもするが。稀にだからな?
「お前相手ならこれだけでも十分だけど、男やあまり親しくない人相手なら、確かにちょっと恥ずかしいからな。だから三上くんを送る時は、これプラス睡眠魔法で眠ってもらったんだ。基本的に男や親しくない人を転移で連れて行くときは、こんな感じで対応するつもりだ」
「なるほど……。それならまあいいか」
雫はようやく納得がいった様子で頷く。そして、しぶしぶながら衣服に手をつけると、ゆっくりと脱いでいった。
「ちゃんと全身を謎の白い光で覆ってよ! 私の裸見たら承知しないからね!」
こいつの裸なんてガキの頃から散々見てるから、今更気にすることもないと思うのだが……。それに俺の方が女性として魅力的なスタイルだし、中坊の、しかも妹の裸なんぞ何の興味もないわ。
とはいえ、多感な年頃だからな。わざわざ刺激するような事を言う必要もないだろう。
「……こ、これでいい?」
雫は顔を赤くしながら、衣服を全部脱いだようだ。俺は妹のリクエスト通り、謎の白い光で全身を服のように覆ってやった。
「ここまでする必要あるか―? 俺なんてほぼ隠すところないのに……」
「お前はもっと隠せやっ! 身体に自信があるのはわかるけどさぁ!」
胸の一部と、下半身の一部しか謎の白い光を当ててない俺に対し、雫はキレ気味に突っ込んでくる。
遂に妹から「お前」呼ばわりされてしまった……。お兄ちゃんとても悲しいです。
「まあいい。ほれ、手を繋ぐぞ。ニオはお前が持て」
「にゃんにゃんにゃむ~……」
先ほど張り切って疲れたのか、床で液体のように溶けて寝ているニオを拾い上げると雫に持たせる。ニオはうにょ~ん、と伸びをしながら、雫の腕にだらーんと巻き付いた。
ちなみにニオの服や帽子は、彼女の魔法によって作り出されたものなので、任意で消失させることが可能である。
さて、これで準備は整った。右手を差し出して雫の手を握る。
「ええ~、このまま20分も待つの?」
雫が嫌そうな顔をするが仕方ないじゃん。そういう仕様なんだからさぁ……。転移君は全裸以外を受け付けてくれないのよ。
「これ、後で琴音にもやるわけ?」
「……まあ、そういう仕様だからな」
「…………」
何だよその顔は……。そんな露骨にドン引きしなくてもいいだろ。俺には男の性欲みたいのはないって何度も説明してるじゃん。
でもまあ、そういうことじゃないんだろうなぁ……。
「あー、駄目!! やっぱ恥ずかしい! ねぇ、お布団の中に入ろうよ。それならお互いの体が隠れるし、布団で顔も隠せるから恥ずかしくないでしょ!」
「ちょ、お前それは……。いや、別に俺はいいけどさぁ」
雫が手を引っ張ってきたため、仕方なくそのまま一緒に布団へと入る。
そして、天井を見上げて手を繋いだまま、時間が経過するのを待つ。
「……あのさ」
「なんだよ?」
「よくよく考えたらさ、女同士全裸でこんな狭い布団に2人で入ってるってヤバくない?」
「だから言ったじゃん……。こっちの方が絶対恥ずかしいって……」
謎の白い光を当ててる状態なら、水着よりも露出度低いのにさぁ……。わざわざ全裸を意識させるような真似しなくてもいいじゃん……。
雫は外から見た自分達の姿を想像してしまったのか、頭から布団を被って顔の辺りまで隠した。俺も、流石に恥ずかしいわこれ……。
「や、やっぱりお布団から出よ! このまま20分も待つの無理!」
「ったく……。しょうがないやつだなぁ……」
雫は布団から顔だけ出すと、耐えきれないといった表情でそう言った。仕方ないので俺は外に出ようとしたのだが――
――コンコン。
部屋のドアがノックされたので、俺と雫は慌てて布団の中に潜り込んだ。
「姉ちゃ~ん、この漫画の続き……」
ドアを開けて中に入ってきたのは空だった。空は俺達と目が合うと、不思議そうな表情を浮かべる。
「あれ? 兄ちゃんと姉ちゃん、一緒に寝てるの?」
「ああ、ちょっとな。空、漫画なら後で――」
「ちょっと空! 早く出て行ってよ! 私達、今裸なんだから!?」
おいぃぃぃぃ!? 言わなきゃ分からなかったことをわざわざ事細かに説明してんじゃねーよ!!
「え? 裸? なんで裸で兄ちゃんと姉ちゃんがお布団……」
「ぎょえぇぇーーっ!? 違くて、これはあれでほら、その……2人の共同作業中というか……っ!」
「お、おい馬鹿っ! お前はちょっと黙ってろ! 空、これはだな――」
「ご、ごめんなさい!」
空は顔を耳まで真っ赤にして、勢いよく部屋から飛び出して行った。
「「…………」」
俺と雫は互いに顔を背けた状態で、再び無言で天井を眺める。
なんだろうね……この気まずい空間。
それから、俺達は互いを見ないようにしながら、手を繋いで20分ほどの時間を耐え抜いたのであった――。
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