第030話「ゴーレムコア」★
「な、なあなあ。ソフィアの姉ちゃん、俺には何かないのかよ?」
「何かって?」
エルクがそわそわしながら、俺へと詰め寄って来た。まあ、言わんとしていることは大体わかるが……。
「だってフィオナはそんなカッコいい短剣を貰って、ルルカもなんか凄いアイテム貰ったらしいじゃねーか。俺だけ何も貰ってねーし……」
若干拗ねたような表情で、エルクが不満を口にする。
「いや、でもエルクは農業要員ですし……。武器なんて必要あります?」
「あるよ! 必要あるよ! 俺だって男だぜ!? こう、なんか剣聖ライガ・フウランみたいに、二刀流でバッサバッサとモンスターを斬り伏せたりとか、武神ガーライルみたいに格好良く拳で敵を粉砕したりとかしたいんだよ!!」
「武神ガーライルを目指すなら武器はいらないでしょうに……」
男の子だなぁ……。
まあ、気持ちはわからんでもないが、エルクは魔力もそれほど多くないし、身体能力も高くない。剣なんて持ったら逆に危ない気がするんだが……。
ちなみに、剣聖ライガ・フウランとは先代の剣王で、二刀流の達人だ。
数年前リリィに敗北して、王印は奪われたが、未だ世界最強クラスの剣士には違いない。彼の編み出した剣術の流派"風雷月光流"は、その華麗で美しい技の数々から、今でも根強い人気を誇っている。
そして、武神ガーライルと言うのは、数年前まで約50年に渡って拳王の座を守っていた人物だ。
高齢の為引退し、弟子の1人に王印を継承させたが、やはりその実力は折り紙付きで、彼の武術の流派"南天流"は、徒手空拳で戦う最強の拳法として、世界中に広く知れ渡っている。
「出してくれよ~。俺専用の武器! あるんだろ? その次元収納の中にいっぱいアイテムが入ってるんだろー?」
俺の細くて美しい腰にしがみついて駄々をこねるエルク。ガキじゃなかったらぶっ飛ばしてるところだぞ。
はぁ……。俺は未来から来た青タヌキロボットじゃ無いんだがなぁ……。仕方ない、何か適当なアイテムを見繕ってやるか。
俺は次元収納に手を突っ込み、アイテムを物色していく。
ふむ、これなんていいかも。
「ちゃらららん♪ ゴーレムコア~~~~♪」
効果音を口ずさみ、ミラクルボイスを使って青タヌキの声真似をしながら、俺は次元収納から取り出したアイテムをエルクに手渡した。
「何だよこれ……。武器じゃねーのかよ……」
雫だったら「何故に旧ドラ!? てかめちゃくちゃ似てるな!? どっから出してんのその声!?」ってツッコんでくれるのだが、全くノリの悪い奴だ。まあ、異世界人に無茶振りしても仕方ないが……。
エルクは手に取った謎の物体を、訝るように眺めている。
俺が彼に手渡したのは、ピンポン玉くらいの大きさの小さな球体だった。表面は艶のある黒色で、まるで磨き抜かれた玉鋼のように輝いている。
がっかりした様子で溜め息を吐くエルクに、俺は肩をすくめて説明した。
「どうやらこれがどれだけ貴重なアイテムか、わかってないみたいですね。これは"ゴーレムコア"といって、土から魔導生物を創造することができるアイテムなんですよ?」
「魔導生物?」
「まあ、実際に見てもらった方が早いですね。皆さん、裏庭に行きましょう」
皆を促し、全員で家の裏庭へと移動する。
裏庭にやってきた俺は、早速ゴーレムコアの実践をして見せることにした。
「まず、このコアに自分の魔力を注ぎ込みます」
俺は説明しながら、コアに魔力を流し込んだ。するとコアは淡い光を放ち、まるで心臓の鼓動のように、一定のリズムで点滅を始める。
「お~、なんか動いてる~!」
ルルカが興奮したように、目を輝かせながらコアを覗き込んだ。
「ここまでくれば、あとは簡単です。このコアを地面に埋めて、大地に魔力を注ぎ込めば、ゴーレムが生み出されます。その際に、完成図を明確にイメージしながら魔力を込めると、より強力なゴーレムが創造できると言われています。さて、どんなゴーレムを創りましょうかねぇ……」
俺はコアを地面に埋め込み、大地に魔力を注ぎ込みながら、何のゴーレムを造るか思案を巡らせる。どうせなら、エルクのやる気が出るようなカッコいい奴がいいだろう。
よし、決めた!
「我が魔力を糧に、生まれ出でよ――"ゴーレムクリエイト"!!」
地面に手を付き、魔力を一気に流し込む。すると、地面がボコボコと音を立てて、巨大な土の塊がせり上がってきた。
「お? おおお? おおおおおおお!?」
それを見て、エルクが興奮気味に声を上げた。
だが、まだだ、もっと集中しろ。想像の翼を広げて、己が理想のゴーレムを創造するのだ――!
――ゴゴゴゴッ!!
土は激しく蠢き、その形を変えていく。俺の体は、土に押し上げられるように、段々と地上から離れていく。だが、俺はそれを意に介することなく、さらにイメージを重ねていく。
そして――。
『グオォォォオオオオ!!』
やがて、土の塊は姿を変え、一体の竜と変貌を遂げた。体長は7、8メートルほどだろうか。巨大というほどではないが、アフリカゾウよりは大きい。
全身を覆う茶色の鱗に、鋭い爪と牙。背中には大きな翼が生えており、長い尻尾がゆらゆらと揺れている。頭部には2本の角が生えており、その眼光は鋭く、見る者を畏怖させるほどの威厳に満ちていた。
ふっ……我ながら素晴らしい出来だ。まさかここまでの完成度の高いゴーレムを創造できるとはな……。
「す、すげ~っ! なんじゃこりゃ!?」
エルクが興奮して、ゴーレムの周りをぐるぐる回っている。
いいリアクションだ……。どうやらゴーレムコアの凄さは伝わったようだな。これでこいつもゴーレムを造りたいというモチベーションが湧いてきただろう。
「すごーい」
「凄まじいわね、流石は特級冒険者といったところかしら」
ルルカとフィオナも、感心したようにゴーレムを眺めている。
俺はドラゴンゴーレムの背から飛び降りると、3人に向かってグッと親指を立てた。
「どうですか? これがゴーレムコアの力です。魔力を通して、イメージを強く念じれば、どんな生物でも創造できるんですよ」
超一流のゴーレムマスターなら、もっと凄いものを創り出すこともできるらしい。中には普通の人間と見紛うほどの、美少女ゴーレムを創り出す奴までいるというから驚きだ。
「ほら、コアはもう一つあるので、エルクもこれでゴーレムを作ってみてください」
そう言ってエルクに新しいゴーレムコアを手渡すと、彼は目をキラキラさせながらそれを受け取った。
「よ、よっしゃー! 俺もソフィアのねーちゃんに負けないくらい、カッコいいゴーレムを作ってみせるぜ!」
エルクは意気込んで、コアに魔力を流し込む。そして、それを地面に埋め込んだ。
「うおおぉぉ! ゴーレムクリエイト――ッ!!」
――ゴゴゴ……。
エルクの叫びと共に、地面が少し盛り上がり、モコモコと蠢き始めた。やがて、地面から這い出るように現れたのは――。
『ワフ?』
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330667103615223
ポメラニアンのような外見を持った、ふわふわもこもこの子犬だった。愛くるしいつぶらな瞳で、こちらを不思議そうに見つめている。
「「「…………」」」
俺達一同は、無言でエルクと子犬のゴーレムを交互に見つめる。
いや……確かに生物を想像して創造しろと言ったけど、子犬って……。しかもめっちゃ可愛いし……。
「エルク……? 一応聞きますが、この子犬は……?」
俺が尋ねると、エルクは頰を赤く染めて恥ずかしそうに俯いた。
「あ、あれ……? おかしいな……。デカくて強くてカッコいい狼を想像したはずなんだけど……」
どうやらエルクは、巨大でカッコいい狼という明確なイメージをもって創造したのだが、どういうわけか出来上がったのは小さな子犬だったらしい。
おそらく魔力の量や練度が足りなかったのだろう。それで、結果的に子犬のようなゴーレムが生み出されたのだと思われる。
「どうします? ゴーレムを破壊すればコアが壊れない限りは何度でも再チャレンジできますけど……」
「そうだなぁ……。そうするか――――」
「「駄目っ!!」」
ルルカとフィオナが、声を揃えて叫んだ。ポメラニアンゴーレムをギュッと抱きしめながら、2人は血相を変えてエルクに食ってかかる。
「こんな可愛い生き物を破壊するなんて、どうかしてるわ!」
「そうだよおにーちゃん。人の心は持ってないの?」
「え? でも、せっかくゴーレムコアを貰ったのに……。俺はもっと強くてカッコいいゴーレムが欲しかったんだよ……」
しょぼんとするエルク。だが、2人は聞く耳持たずといった様子だ。
「ソフィアのねーちゃん。もう一個ゴーレムコアくれないか? そしたらこいつを壊さなくても済むだろ?」
「貴重なアイテムだって言ったじゃないですか。今ので最後ですよ。ほら、さっさと諦めて、その子犬のゴーレムと仲良くしなさい」
俺はポメラニアンゴーレムを抱きかかえると、そっとエルクに差し出す。すると、彼は渋々といった様子でそれを受け取った。
『ワフ?』
ポメラニアンゴーレムが不思議そうに首を傾げる。それを見て、エルクは頬を緩ませた。
「ま、まあいいか……。せっかくだし、こいつを大切に育てることにしようかな」
「ええ、ゴーレムは毎日魔力を注ぎながら愛情を込めて育てると、より強くなるらしいですよ」
今はこんな可愛らしい姿だが、いずれはエルクの立派な相棒となることだろう。
「よし! お前の名前はポメタロウだ! よろしくな!」
『ワフー!』
エルクがポメタロウの頭を撫でてやると、彼は嬉しそうに尻尾を振った。俺達はその様子を微笑ましげに眺める。
『グオオオオォォォーーン!!』
ドラゴンゴーレムも、心なしか嬉しそうに吠えた。
そういや勢いで作ったけど、こいつどうしよう……。せっかく作ったし、壊すのは勿体ないよなぁ。
「ふむ、そうですね。お前の名前はドラスケとしましょう。番犬ならぬ番竜として、家を守ってください」
俺が名付けてやると、ドラゴンゴーレム改めドラスケは嬉しそうに体を震わせた。喜んでくれたようで何よりだ。
こうして、俺達の家に新たな仲間――ポメラニアンのポメタロウとドラゴンのドラスケが加わったのだった。
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