第15話 真昼の夢 エミリー・ブロンテ作 額田河合訳
陽の降りそそぐ土手にひとり私はねころんでいた
とある夏の日の午後
ちょうど「五月」の結婚の時だった
彼女のうら若き恋人「六月」との
光あふれる婚礼の主役は
母親の胸を離れるのをいやがっていた
しかし父親はかつてその腕に抱いた
この上なくうるわしい子に微笑みかけていた
木々は羽毛のような冠をゆすらせ
うかれきった鳥たちは高らかに歌った
そうして私は、婚礼の客にまじって
ただひとり陰鬱な顔をしてそこにいた
誰もがみな私を避けていた
喜びのかけらさえない顔を
灰色の岩々でさえ、私をのぞき込んでは
尋ねるのだった「おまえはここで何をしているのだ」
私は答えられなかった
ほんとうに自分でもわからなかった
なぜこんなにもくぐもった顔をして
これほど何もかも輝いている場所へあいさつに来たのか
それでヒースの斜面に横になったまま
自分の心を抱き寄せた
そしてふたりはともに悲しげに
もの思いに沈んだ
ふたりは考えた「再び冬が来るとき
これらの輝きはどこへいってしまうのだろう?
すべては消え去っている、むなしい幻のように
うつろな道化のように
今はあれほど楽しげに歌っている鳥たちが
凍てつき乾ききった荒野の中を
終えた(ついえた)春のみじめな亡霊のように
飢えた群れとなって飛び回るのだ
ならばいったいどうして喜んでなどいられよう
木の葉が緑になるかならないうちに
もうやがて枯れていく確かなしるしが
その表に見てとれるのだ」
そうなのか? みな本当にそうなのか?
私はあやふやだったわからなかった
だが悲しみといらだたしさに襲われて
荒野の上に背を伸ばした、まさにそのとき
幾千、幾万ものきらめく炎が
大気の中で輝いているのが見えた
幾千、幾万もの銀の竪琴が
ここかしこにこだまするのが聞こえた
自らの吐く息さえも
神聖なきらめきに満ち
私が背にしているこの荒野全部が
天上の輝きであふれているように思われた
不思義な歌がこだまして
広い台地に鳴りわたっていた
小きなひかりの精たちは歌っていた
少なくとも私の耳にはそう聞こえた
「おお、人よ、人よ、死ぬがいい
時と涙に滅ばされるがいい
さすれば私たちはこの空のすみずみまで
あまねき歓喜をあふれさせよう
悲しみよ、悩むものの胸に絶望をもたらせ
夜よ、その歩む道を暗闇で覆うがいい
それらが彼を水遠の休息
とこしえの一日へとせきたてよう
おまえにとってはこの世は墓のよう
草も木もない果てしない荒野
私たちにはたとえようもなく美しい花の開くように
世界ははてしなくはてしなく輝きを増してくる
もし、おまえの目を遮る覆いをかかげて
この輝きを一目でも見せてやることができたなら
おまえはきっと生きている者たちのために喜ぶだろう
その人生に死の結末が待っているということを」
歌は終わった――真昼の夢は
夜の夢のごとく消え去った
それでも空想はこれからもときおり
自分の生んだ優しい夢を本当のことと思うだろう
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