第六十六部

 魔女の宮殿――ここには途方もない量の魔法の情報が眠っている。


 俺は天井を仰ぎ、静かに瞼を閉ざした。


 まずは状況を整理しよう。


 あの時、俺はスラム街の亡霊を窮地に追い込んだ。

 魔法は使わず、使おうともしていなかった。

 恐らく発動条件は魔女を感知したからではなく、命の危機に瀕したから。

 目の前の脅威を排除するため、スラム街の亡霊は怪物へと変身を遂げた。


 次は目的の仮定。


 スラム街の亡霊は素の状態でも腕が立つようだった。

 そんなやつがピンチに陥るとしたら、相手は並外れた力を持つ魔女かもしれない。


 主である魔女は、スラム街の亡霊を守るためではなく魔法の発動によって魔女を炙り出そうとしていた?

 一体なんのために?

 莫大な懸賞金のため?

 同類に対する怨恨?


 いや、そんなことはどうでもいい。

 魔法が発動することによって他の魔女の存在を疑う――目的の仮定ができただけで十分だ。


 自分なりに魔法を推測し、その構築を試みる。


 他者に魔法を付与、発動条件を設定。

 傀儡を生み出し、生ける罠を野に解き放つ。


 魔法が完成する間際、朧気な面影が二つ見えた。

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