第十部

 人目につかない路地裏を散歩する。

 こうでもしないと、妙に呼び止められていけない。

 ドレスのせいか、高貴な身分と勘違いされているのだろうか。


「お姉さん、ちょっとちょっと」


「はぁ、またか……」


 げんなりしながら振り返ると、そこにいたのは金髪のチャラ男だった。


「お姉さん、俺とお茶でもどう? いいカフェ知ってるんだけど」


「結構、忙しいんで。じゃ」


「待って待って。お姉さん、この国の人じゃないでしょ? 俺、雰囲気でわかるんだ。観光なら案内人が必要だと思ってね。それに――」


 チャラ男がにやりと笑う。


「さっきの、見てたんだ」


「さっきの?」


「市場でモテモテだったじゃん? お姉さん、魔性の女だねぇ。もしかして、魔女だったりする?」


 ドキっとする。


 まさか俺が魔女だってバレてる?

 いやいや、そんなはずは……第一、俺はまだ魔女じゃないし。


「そ、そんなわけないじゃん。魔女なんていないって」


「ふーん。ま、そうだよねぇ。魔女なんて誰も見たことないし」


「ほ、ほらね、魔女なんていないんだって」


「それがそうでもないらしいんだよね。お姉さんは知らないかもしれないけど、この国のどこかに魔女が住んでるって噂だ。伝説にも残ってるくらいだし、いるにはいるんじゃないの」


「伝説って?」


「魔女の人体実験、魔女狩り、王都と魔女の戦争――そんなとこかな。王都にとって魔女は害悪な存在だったみたいだよ。博物館に魔女の頭蓋骨も展示されてるし、まあ歴史の一幕って感じ?」


 王都と魔女の歴史、か。

 聞いてる限りじゃ友好的じゃなさそうだ。

 もし俺が魔女の存在をバラせば魔女狩りに遭ってしまうかもしれない。

 これがお師匠様の忠告の真意か。


「それよりさ。案内してあげるから、俺とデートしようよ。魔女に興味があるなら博物館にも連れてってあげるからさ」


「このナンパ野郎……案内はいらない。一人で大丈夫だから」


「えー、そんなこと言わずに行こうよ。悪い人に絡まれたら大変だ」


「絶賛絡まれ中でしょ」


「いいからいいから」


 ナンパ男が俺の腰に腕を回す。


 こいつ、無理矢理連れていくつもりらしい。

 面倒くさい。


「しつこい!」


 軽く突き飛ばしたつもりが、ナンパ男は勢いよく宙を舞った。

 壁にめり込んだかと思うと、糸が切れたマリオネットのようにだらりと頭を垂れた。


 ……聞き込みが終わったら、もう帰ろう。

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