第八部
「さて、今日の修行だが、貴様には雨を浴びてもらう」
「雨?」
ソルシエルが人差し指を立て、上空を指差す。
無数の黒く細長い物体。
目を凝らして見ると、その一つ一つが剣であることがわかった。
「剣の雨だ」
「……お師匠様についていくのやめようかな。こんなのただのいじめじゃん!」
「何を言う、これも立派な修行の一環だ。死の際に立てば見えてくる境地もある。どうすれば無傷で済むか考えてみろ」
無茶なこと言いやがって……第一、運だけで避けられるほどの数じゃない。
剣の数は軽く百を超えている。
でも、お師匠様は泣き言を言っても止めてくれるほど甘くない。
考えろ。
ここはやるしかない。
魔法とは俺が定義するもの。
だったら、運に頼るな。
偶然で避けるんじゃない、必然で当たらないんだ。
俺には一本たりとも剣は当たらない。
「魔法『反転』。偶然を必然に」
剣の雨が降ってくる。
鋭い切っ先が風を切り、次から次へと地面に突き刺さる。
「ほう」
結局、剣が俺に傷をつけることはなかった。
「見事だ、ナナシよ。弟子入りしたばかりだというのに、まさか『反転』を使うとはな」
「なんか感覚が掴めた気がする。今日の修行はこれでおしまい?」
「ふむ、我は貴様を見くびっていたようだ。貴様に修行は必要ない。放っておいても自ずと魔法のなんたるかがわかろう」
「え、もう免許皆伝?」
「馬鹿者。まだ魔女を名乗る資格すらないわ。だが、我の予想より早く魔女になれるだろうな。ともなれば、計画変更だ。これから貴様には王都へと赴いてもらう」
王都――アニメやゲームで耳にしたことのあるワードだ。
異世界感満載で胸が躍る。
「王都アルトリンデ。はっ、口にするだけで虫唾が走る……ちなみに、我は同行せぬ。貴様一人で行ってこい」
「え、お師匠様も一緒に行こうぜ。案内なしはちょっとさすがに……」
「甘えるな。これも修行の一環、いつまでもつきっきりだと思うな」
「絶対お師匠様が行きたくないだけでしょ。引きこもり」
「……うるさい。それなら、せめてもの慈悲だ。馬車は用意してやろう」
そう言うや否や、嘶きと共にどこからともなく馬車が現れた。
「へぇ、生き物まで生み出せるのか」
「当然だ。料理も然り、我が創るものは贋物にあらず。全て本物だ。この馬とて血が通う立派な生き物、魔女を名乗るなら貴様もこれくらいできるようになれ」
「はいはい。じゃあ、行ってきます」
「ああ、一つ忠告しておく。決して誰にも魔女のことは話すな」
「え、なんで?」
「後悔することになる」
意味深な忠告が気がかりだったが、俺は馬車に乗り屋敷を離れた。
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