アマ月姉さんは忙しい!

イズラ

プロローグ———面倒くさいこと

 キーンコーンカーンコーン




 机に突っ伏しています、私は。




 「アマ月さん、消しゴム、拾ってくれない?」



 私を呼ぶ声が聞こえようと、突っ伏しています。


 「....お、おーい。あ、アマ月さーん......?」



 無視は良くない?


 そんなこと、親から教わっていないので。


 「あー、あー.....やっぱいいや。自分で拾うね..............ご、ごめんね」



 親から教わっていないことは、あまりしたくありません。


 だって面倒くさいから。


 自分は、親の言いつけ だけ守っていればいいから。




 しばらくして、ふと顔を上げると 時計は始業チャイムの2分前を指していました。


 ああ、面倒くさい。


 授業じゃなくて、その後が。


 部活でも塾でもない。それよりも ずーっと、面倒くさいこと。


 それがあるせいで、塾も部活も行けやしない。


 それというのは—————








——とある廃工場にて


 「ああもう!どうして毎日毎日、あんたの相手をしなきゃなんないのよ!」



 ストレスの出どころ。それは、妹.....いや、義妹ぎまいである。


 「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい....................!!!!」



 そう言いながら、義妹は右腕を振り下ろす。


 直後 風が刃物のごとく、高速で私に向かってくる。


 私は身を ひるがえし、風の刃をかわす。


 「.....いい加減 自分の力くらい、自分でコントロールしろやぁ!!」



 義妹を怒鳴る。これも毎日のことである。


 義妹は常に「ごめんなさい」を連呼しているが、攻撃の手は緩まない。


 次々と飛んでくる 突風の刃を、壁を蹴ったりしながら避けるが、守りばかりでは勝てないのだ。


 こちらもそろそろ、反撃の一手に出る。


 「ったく.....。謝りながら 殺そうとして来るって、とんだ狂人ねぇ!!!」


 「.....ちが!違うの!!勝手に、手が、手が動いちゃうの!!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」



 それでは、『私の力』もお披露目と行きましょうか。


 義妹の攻撃が途切れた、その瞬間。


 左目を閉じて、右目に 意識を集中させる。


 目の焦点は 義妹一点に向け、深く息を吸う。


 そして——

 





 <<<<<v^v^v^v^ ドカアアアアアアアアアン v^v^v^v^>>>>>






 その瞬間、どこからともなく現れた雷が 義妹に落ちた。


 「「「!!!!?????」」」


 




 ....................とんでもないのが出た。



 自分でも驚いてしまうくらいだ。



 ていうか、実際 心臓止まるかと思った。






 しばらく呆然としていた私だが、ハッと我に返った。



 「あ..........だ、いじょうぶかな.....?」


 「..........」



 沈黙。


 とても不安になってきた。



 毎日毎日 義妹の相手をしていて、雷なんて何百回も落としてきた。



 今 落ちた雷は、今までとは比べ物にならない、自分すら吹っ飛ばすほどの勢いだった。



 果たして そんな雷を直で食らって、義妹は..........生きているのだろうか.....。




 .....ああ、あああ。





 「.....ごめんなさ」




 <<<<~-~-~-~-ビュゥゥゥゥゥゥ~-~-~-~->>>>


 

 


 風が、吹いた。



 謝罪の言葉を遮るように、意思を持つように。



 風の音が、建物中に響き渡る。



 どうやら、ご存命のようです。




 「.....ハァ、『無事でよかった』って言うべきかなぁ..........」



 「あ.....あ.....お姉ちゃん!!まだ.....収まらないみたい.....!!!」



 義妹は 瀕死どころか、ピンピンしていて、今にも殺しにかかって来そうだった。


 私は少々、この娘を甘く見ていたようです。




——こいつと『戦わなくちゃいけない』 それが 面倒くさいこと。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アマ月姉さんは忙しい! イズラ @izura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ