濡れ衣は脱げなくても、メイド服は着れます

燦月夜宵

 ――レヴィア・セオトランテは悪女である。


 彼女は大陸の名を冠する大国、オーゼント国における四派閥と呼ばれるうちの【ベルデ】に属する下流貴族・セオトランテ男爵家の次女である。

 齢は18。黒髪に底のない薄いブルーに青紫が揺らめく目を持つ顔は常に冷え切っており、生まれついて人の心を見ずに己の利益のみ考える自己中心的を極めた冷徹な女であった。

 レヴィアの名が国に知らしめた事件が起こったのは彼女が国立魔術学院の修学を満了し、卒業してから僅か一ヶ月後の話である。

 学生時代から冷め切った表情と態度で周囲を寄せ付けず、自分の気に入った者や利になると踏んだ者のみを近付けた。彼女は自身の家柄の嫌っており、当時から上流社会への昇格を計画していたのだ。

 卒業後、レヴィアは虎視眈々と王族と近しい関係を狙っていた。手始めに上流貴族と知り合うため、貴族間の交流会などへ積極的に参加した。そこで王族の血縁にあたる【ガネト】の侯爵に目を付けて誘惑した。妻子を持つ身である彼を陥れて恐喝し、第三王子の婚約者を襲うように指示をした。婚約者を失った王子へ取り入ろうと根回しも怠らない計画だった。

 満を持して襲撃は成功するかに思えた。が、侯爵とレヴィアの不審な行動には目撃者がいた。目撃者の機転により事前に破綻し、二人は議会に出頭を要請された。脅されて行動するしかなかった侯爵の悲壮で切なる訴えによりレヴィアの人生をかけた計画は露見し、叶うことはなかった。

 謀の大きさに議会は紛糾した。豪胆かつ自惚れの強すぎる事件の当事者は相も変わらず氷のような表情で、騒がしい場を冷ややかに見つめていた。彼女を待っていたのは望んだのとは違う形での階級特権の剥奪だった。王都への入都および、親族や友人と自ら接触することも許されない。国との関わりを断絶された上、辺境の土地にある城で一生、城で孤独に住まう貴族の『所有物』となる判決が下った。城伯がどんな命令をしても彼女に拒否権はなく、どんな非人道的行為があっても国は一切関わらない。

 もうレヴィアは男爵令嬢ではない。動物よりも扱いの軽い『物品』としての一生を国から定められたのだ。


 それでも彼女は厚顔無恥の権化のままだった。反省の素振りなど一切見せず、氷山のように堂々と構えた瞳は揺るがない。


「間違いなどひとつもありません。例えそれらが全て罪だったとしても、私にとっては全てが正しかったのです。後悔など今後もいたしません。己のすべきことに胸を張り誇りにして、一生を終えさせていただきます」

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