親友に彼氏をNTRされて泣いてる後輩美少女に、初対面の俺が「話聞こうか?」と聞きまくってみたら

緒方 桃

後輩美少女と友達から始めてみることになりました。

第1話 「どしたん? 話聞こうか?」

「どしたん? 話聞こうか?」


 バイト帰りの夜、とある公園にて。

 いつもなら閑散としているこの場所で、異様な事態が発生していた。


「ねぇ、どしたん? 話聞こうか?」


 一人の金髪DQNが、ブランコに座る制服少女にしつこく迫っていた。

 話を聞こうとしている割には、下卑た笑みを浮かべていて、目は完全に獲物を狙うものだった。

 知り合いかな、とは一瞬思ったが、彼女の表情や様子を察するに、そうとは考えられない。

 でなければ、無遠慮に肩を触れられて、あからさまに脅えた様子を見せないだろう。


「──おい」


 だから俺は、咄嗟に声をかけた。

 ただ、公園で泣いてる少女が、DQNにナンパされているのが気になっただけ。

 ただ、俺の嫌いなDQNが彼女にしつこく迫ってたから、彼女を助けようと思っただけ。


「は? 誰だお前」

「そっちこそ、その子の何なんだよ」


 まぁ、何者でもないだろう。お前も。

 だからだろうか、男は俺をギリっと睨み、胸ぐらを掴んだ。


「なぁ、まずはオレの質問に答えろよ? なぁ?」

「あぁ分かったよ。亜麻靡あまないつくし。高校二年。あの白いブレザーを見るに、そこにいる茶髪ミドルの少女と同じ高校だ。それで十分か?」

「……っ、舐めてんのか? テメェ」


 最悪だ。俺はちゃんと質問に答えただけなのに。


「あぁ、そうだ。舐めてるよ」


 どうやらコイツとはまともに会話できないようだ。

 ということで、俺は男を引き剥がし──。


「ぺろぺろ、ぺろぺろ、なぁ!!」


 見るからに下心でギンギンの股間を思いっきり蹴り上げてやった。

 だって殴り合いの喧嘩とか面倒だし、この方が手っ取り早いだろ?


「くっ……、がはっ! ……くそっ、次会ったら、ぶっ殺すからな!!」


 小物よろしく捨て台詞を吐きながら、DQNは股間を押さえて逃走。

 さて、これにて世界で2番目に嫌いな存在を撃退したので帰ろう。

 ちなみに1番嫌いなものは『NTR』だ。あれだけはマジで胸糞悪くて見てられない。フィクションでも無理だ。


「……ぐすっ、すみません。ありがとうございます」


 しかし、俺の足は動かなかった。

 どうしても、放っておけなかった。

 だって彼女、DQNに怯えてた割には、まったく泣き止まないのだから。


「……ぐすっ、うぅっ、ぅぅぅ」


 それどころか、更に泣き出したのだ。

 夜10時の公園で、泣きじゃくるJKが一人。

 さすがにこれを放置するのは、男として、いや、人間としてどうなんだ? って話だ。


「…………」


 ちょこんと。

 とりあえず俺もブランコに座ってみた。


 ──どしたん? 話聞こうか?


 DQNのこの質問から察するに、おそらく彼女はDQNが現れる前からこの調子だったのだろう。

 というわけで、俺も彼女に聞いてみる。


「どうした? 話聞こうか?」


 初対面なのに。別に誰かの相談に乗るのが上手いわけでもないのに。


「…………ぐすっ」


 もちろん、答えてくれるわけなんてないのに。

 でも、こうするしか無いなと思ったのだ。

 ……って、これじゃあDQNの二の舞じゃねぇか。

 俺はただ、彼女を早く家に帰したいだけなんだけどな。


「……すみません。さっきはありがとうございました」


 しかし次の瞬間、彼女はあっさりとこの場から立ち去った。

 どうやら俺の役目は終わったみたいだ。


「さて、俺も帰るか」


 ベガとアルタイルが顔を出すにはまだ早い六月の夜空を見上げながら、俺もこの公園を後にした。



 ○



「……ぐすっ」


 しかしその翌日、バイト帰りの午後10時。

 同じ公園の同じブランコに、再び彼女が現れた。


「……うぅっ、どうして」


 しかも、また泣いてる。


「…………」


 もう一度、ちょこんと。

 俺は昨日みたく、隣のブランコに腰掛けた。

 そして──。


「どうした? 話聞こうか?」

「…………」


 今度は、無視された。



 ○



 三日目。バイト帰りの午後10時。

 例の公園に、やっぱり彼女は現れた。


「……うぅっ」


 また、泣き出した。


「どうした?」

「…………」


 そして、また無視された。



 ○



 なんだかんだ、俺は一ヶ月も夜10時の公園で観察していた。

 こんなことをしたのは、自由研究で星座を題材にした時以来だ。


「……うぅっ」


 一月ひとつき経っても、未だに晴れない少女の心。

 彼女はブランコに座っては、また泣き出した。


「どうした? 話聞こうか?」


 そして俺もブランコに座って、一言。

 この言葉を発したのは、何も返されなかったのは、もう何度目か分からない。


「……すみません、大丈夫です」


 しかし、ようやく初日以来のレスが返ってきた。

 しかも、やや崩れた笑顔もセットだ。


「大丈夫……って、どう見てもそういう風に見えないんだけど?」


 一ヶ月も、夜遅くの公園で泣いていたのだ。

 これにはたまらず、そう言わざるを得なかった。


「…………」


 また、無視された。


「……帰るか」


 雲に隠れた夜空を見上げて、俺はブランコを降りようとした。

 次の瞬間だった。


「……げっ、雨かよ」


 ぽつりぽつりと。

 小さな雨粒が地を濡らしたのも束の間。


「──って、やばっ!」


 ざぁざぁと。

 声をかき消すほどの轟音を立てて一気に降り出した。


「えっと、折りたたみ折りたたみ……、あった!」


 散らかったリュックから、黒い傘を一本。


「ほら、これ!」


 俺はそれを広げ、迷わず彼女の手に持たせた。


「えっ……」

「『えっ』じゃねぇ。これ持ってさっさと帰れ」

「えっ、でも、お兄さんは?」

「俺はいいんだよ! 家、近いから!」


 とはいえ、ここでずぶ濡れになるわけにはいかない。

 俺は逃げるように、この場を立ち去った。



 それから次の日。

 また同じ時間に彼女が現れるのだが。


 そこでようやく、彼女が真実を打ち明けてくれた──。

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