女だとばれて伯爵家の当主の座を追われ、オネエな王子と結婚することになりました。
ありま氷炎
第一章 元男装伯爵はオネエな王子と結婚する
第1話 初夜
「だから、諦めなさいよ」
端正な顔、けれどもその唇にはしっかり紅が塗られていて、睫毛は影が落ちるほど長い。
本当はドレスを着たいのにと愚痴をこぼしていた事を思い出しながら、メルデルは彼を見ていた。
「やっぱり女だったのね。だって線が細すぎるし、肌も綺麗だし、そうだと思っていたのよね」
彼……、第二王子サラサンは彼女の頬を触る。
「うわあ、なんて柔らかいのかしら。羨ましいわあ」
男好きの王子、女嫌いの王子。
そう言われていた彼は、嬉しそうに両手でメルデルの頬を揉みまくり、何か恍惚とした表情を浮かべていた。
「あ、あの。殿下は男の方が好きなんですよね?」
「うん。そうよ。あなたが女だってわかって随分がっかりしたわよ。でもあなたなら全然大丈夫よ」
「いや、でも」
「なに?嫌なの?だったらお家は……」
「よ、よろしくお願いします」
第二王子、サラサン。
その美貌に知性、第一王子よりも王にふさわしいとまで言われる彼だが問題があった。それは彼の性格と嗜好だ。
女性のような話し方をし、しかも好きなのは女性ではなく、男性。
中性的な美しいその顔で迫られば、男といえども揺らぐらしい。
なので、彼の周りには男性の使用人が遠ざけられるようになった。それくらい、男好きの第二王子。
種を残すことがよしとされる国柄、同性婚など認められることはなく、サラサンは王位継承という点で、すでに候補外になっていた。
第二王子にもかかわらずだ。
だが、そんな彼がついに結婚することになった。
相手は、男?
いや違う。
元、キャンドラ伯爵である、メルデル・キャンドラだ。
彼、いや彼女は男と偽り18歳まで生きてきた。
3年前に父親がなくなり、その当主の座に男としてついた。
メルデル本人は、まだ10歳の弟が成人したらそっと身を引くつもりだったのだが、数日前、彼女が女であることがばれてしまった。
男性にしか継げない伯爵家、弟がいるにも関わらず、男と偽りその当主になった。そして王の前でも男として挨拶をしている。
反逆罪だ、などと、騒がれたものだが、第二王子サラサンが言葉を挟んだ。
「それは、大問題ね。いいわ。私の妃にしましょう。そうすれば問題解決でしょう?」
根本的な問題は解決されていない。
王に偽りを申し立てたのだ。
しかし、伯爵としてその領地もしっかり治めており、極めて優秀。他の領地に比べ領民からの不満の声が上がっていない。
非のうちどころがない伯爵としてこの3年、王宮にも出入りしている。
ただ問題は、女でありながら、男と偽ったことだ。
サラサンは男好き。どんな令嬢を差し向けても、首を縦に振らなかった。時には令嬢が泣いて王宮を去ることもあった。それくらい、女性には辛辣で結婚など無理だと思われていた。
しかし、そんな彼が、メルデルを妃にしようと言ったのだ。
王が迷ったのは時間にしてほんのわずかだった。
「メルデルへの処罰はなしとする。その代わり、彼女をサラサンの妃とする」
その言葉を書面にして、同日、屋敷で謹慎している彼女の元へ届けられた。
「兄上、いえ、姉上!よかったですね」
「なんてこと。妃、妃よ。おめでとう!」
「これで伯爵家は救われた。先代にあの世でお詫びをせずにすみました」
メルデル以外の家のものに総出で喜ばれ、祝福。
ーー結婚なんて無理です。
サラサン王子とはお茶をするくらい仲はよかったが、結婚なんて考えたこともない。それはそうだ。男として彼との時間を過ごしていたのだから。
しかし、彼女にはもはや選択肢はなかった。
ーーおおかた、サラサン殿下は私に同情してくださって、そんな申し出をしてくださったのだろう。
もし申し出がなければ、悪ければ死罪、お家は取り潰されていただろうから。感謝をしなければな。
そういう風にメルデルは思うことにして、「結婚」「妃」という意味をあまり考えなようにしていた。そうして婚姻は結ばれ、王の面前で夫婦の誓い。そうして、いわゆる初夜を迎えることになった。
初夜がどういうものは知ってるが、男好きの王子が自分に手を出すなど考えてもいなかった。けれども、あなたは特別と、サラサンはその青い瞳に何か熱を含ませ、彼女を見ている。
今までなんどもお茶を共にして、彼となりを知っているつもりだったのだが、こういう表情の彼を見たことがなくて、ガチガチに緊張していると突然、王子が笑い出した。
「冗談よ。冗談。やーね。あなたは特別だけど、私は好きなのはやっぱり男。あなたの柔らかい頬もいいけど、ちょっと物足りないのよね」
軽やかに笑うサラサンを見て、メルデルは心の底から安堵した。
「今日は疲れたでしょ?私は疲れたわ。さあ、寝ましょう」
彼は大きな欠伸をすると、ごろりとベッドに横になる。
「おやすみなさい。メルデル」
「はい、おやすみなさい」
同じベッド、しかし夫婦であれば当然のことだ。
戸惑いながらも寝息も聞こえたきたので、彼女は恐る恐るその隣に横になる。
今の状態で眠れるはずがないと思ったのもつかの間、メルデルは眠りに落ちていた。
「……冗談じゃなかったんだけど。まあ、怯えている彼女に何かするようなことはできないわ」
サラサンが体を起こして、彼女の頬に触れる。
熟睡しているメルデルが気がつくことはなかった。
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