第3話 幼馴染よ永遠に
夜、美玲は、『Lover』のライブDVDを観ていた。
すると、何食わぬ顔で、誠が部屋に入ってきて、さも当然のように、美玲の隣に腰を下ろした。
「ねぇ」
誠は美玲に声をかけたが、美玲は無視して、画面を見つめた。
「美玲」
「なっ…」
ちゃんと名前で呼ばれたのは、いつぶりだろうか。
美玲は思わず、動揺した。
その隙に、誠はDVDを一時停止した。
「こっち見てください」
「…はい」
美玲は、仕方なく誠の方を向いた。
「お話聞いてください」
「はい」
「俺、今日彼女と別れてきた」
「は…?」
誠は美玲の手を取った。
「改めて、好きだよ。美玲」
「……なんで、私なの」
美玲の口からやっと出てきたのは、そんな捻くれた言葉だった。
「わざわざ彼女と別れるほどなの…?」
「だって美玲が好きなんだもん」
「でも…」
「もう、ただの幼馴染のままなんて嫌なんだ」
私は幼馴染のままでいいよ。
「帰って…」
美玲は俯いたまま、そう言うのが精一杯だった。
「みれ…」
「お願い」
誠は部屋を出ていった。
しばらくして、美玲は風に当たろうと窓を開けた。すると、少し冷たい秋風が、部屋に入ってきた。
誠の家の玄関前に人影が見えた。それは、誠と女の子だった。恐らく、例の彼女だ。
二人は何か話しているようだった。誠が家に入ろうとすると、彼女は縋り付くように引き止めた。誠はそれを優しく振り解き、家に入った。そして彼女は力なく帰っていった。
「さむっ」
美玲は窓を閉めた。
勘違いだろうか。彼女が一瞬、こっちを睨んだような気がした。
「春野さん」
次の日の昼休み、美玲が廊下を歩いていると、誰かに声をかけられた。振り向くと、その声の主は誠の彼女だった。
名前は確か…
「夏目さん…?」
「ちょっといい?」
美玲と夏目は、屋上へと向かった。
「えっと…?」
「昨夜、見てたでしょ?」
「はい、ごめんなさい…」
「あのね、お願いがあるの」
振り向いた彼女の表情は、静かに怒っているようだった。冷ややかなその表情に、美玲は背筋がゾクっとした。
「私から冬山君を取らないで」
「え?」
「冬山君にこれ以上、近づかないで」
夏目は美玲に詰め寄った。美玲の背中にフェンスが当たった。
「あの、私、関係ないからっ…」
美玲は屋上から逃げ出した。
教室へ走っている途中で、誠と会った。
今一番見たくない顔なのに。
「あ、みー!丁度よかった、現国の教科書貸してー」
美玲は、無視して教室へと走った。背に誠の引き留める声が聞こえたが、構わずに走った。
教室に入ると、美玲は亜紀に抱きついた。
「どうしたの!?」
「ちょっと、色々あって…」
何かを察した亜紀は、美玲の額に触れた。
「あついよ?大丈夫!?」
亜紀の心配する声が、段々と遠くなっていく。
一瞬、ふわりと体が浮いた気がした。
なんかこの匂い、知ってる。
そこで美玲の意識は途切れた。
目が覚めると、見慣れた天井が目に入った。窓から、オレンジ色の光が差し込んでいる。
私の部屋だ。どのくらい寝てたんだろう。
起き上がろうとすると、足が重くて起きられなかった。
「なに…?」
足の方に目をやると、茶色いふわふわの頭が見えた。誠だ。誠は、美玲の足元で寝息を立てていた。
「うーん…」
誠の顔がこちらに向いた。目の下に、涙の跡があった。テーブルに目をやると、スポーツドリンクやプリンが沢山置いてあった。
「病人の上で寝るなよ…」
美玲は誠の髪にそっと触れた。
ヲタクな私の、恋愛備忘録 海 にはね @uminihane
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