幼馴染よ永遠に(1)

 夜、美玲は『Lover』のライブDVDを観ていた。

 すると、何食わぬ顔で誠が部屋に入ってきて、さも当然のように、美玲の隣に腰を下ろした。

「ねぇ、みぃ」

 誠は美玲に声をかけたが、美玲は無視して、画面を見つめた。

「美玲」

「なっ…」

 ちゃんと名前で呼ばれたのは、いつぶりだろうか。

 美玲は思わず、動揺した。

 その隙に、誠はDVDを一時停止した。

「こっち見てください」

「…はい」

 美玲は、仕方なく誠の方を向いた。

「お話聞いてください」

「はい」

「俺、今日彼女と別れてきた」

「…は?」

 誠は美玲の手を取った。

「改めて、好きだよ。美玲」

「……なんで、私なの」

 唖然としていた美玲の口からやっと出てきたのは、そんな捻くれた言葉だった。

「わざわざ彼女と別れるほどなの…?」

「だって美玲が好きなんだもん」

「でも…」

「俺はね、いつまでもただの幼馴染のままなんて、もう嫌なんだよ」

 私は幼馴染のままでいいよ。

「帰って…」

 美玲は俯いたまま、そう言うのが精一杯だった。

「みれ…」

「お願い」

 誠は静かに部屋を出ていった。

「一旦、頭冷やそ…」

 風に当たろうと窓を開けた。少し冷たい秋風が、部屋に入ってきた。

 ふと、下の方に目をやると、誠の家の玄関前に人影が見えた。それは誠と女の子だった。恐らく、例の彼女だ。

 二人は何か話しているようだった。(話の内容は想像がつくが)誠が家に入ろうとすると、彼女は縋り付くように引き止めた。誠はそれを優しく振り解き、家に入った。そして彼女は力なく項垂れて帰って行った。

「さむっ」

 美玲は窓を閉めた。

 勘違いだろうか。彼女が一瞬、こっちを睨んだような気がした。


「春野さん」

 次の日の昼休み、美玲はトイレから教室へ戻ろうと廊下を歩いていると、誰かに声をかけられた。振り向くと、その声の主は誠の彼女だった。

 名前は確か…

「夏目さん…?」

「ちょっといい?」

 美玲は言われるがまま、夏目に着いて屋上へと向かった。

「えっと…」

「昨日の夜、見てたでしょ?」

 やはり、それが理由だったか。

「えっと、ごめんなさい…。見るつもりはなかったんだけど」

「あのね、お願いがあるの」

 振り向いた彼女の表情は、静かに怒っているようだった。冷ややかなその表情に、美玲は背筋がゾクっとした。

「私から冬山君を取らないで」

「え?」

「冬山君にこれ以上、近づかないで」

 夏目は美玲に詰め寄った。美玲の背中にフェンスが当たる。

「私には冬山君しかないのっ!幼馴染だからって、独り占めしないでっ!!」

「あの、私、何も関係ないからっ…」

 美玲は屋上から逃げ出した。

 怖い。見かけは温厚そうな雰囲気なのに、あんなヒステリックな怒り方をするなんて。

 急いで教室へ走っている途中で、誠と会った。

 今一番見たくない顔なのに。

「あ、みぃ!丁度よかった、現国の教科書貸して〜」

 美玲はどうしていいかわからず、無視して教室へと走った。背に誠の引き留める声が聞こえたが、構わずに走った。

 教室に入ると、美玲はすぐさま亜紀に抱きついた。

「どうしたの!?」

「ちょっと、色々あって…」

 何かを察した亜紀は、美玲の額に触れた。

「あついよ?大丈夫!?」

 亜紀の心配する声が、段々と遠くなっていく。すると、ふわりと体が浮いた気がした。

 少し骨張った感触。ほんのりと感じる温かさ。

 この匂い、知ってる。

 そこで美玲の意識は途切れた。


 目が覚めると、見慣れた天井が目に入った。窓から、オレンジ色の光が差し込んでいる。

 私の部屋だ。どのくらい寝てたんだろう。

 起き上がろうとすると、足が重くて起きられなかった。

「え、なに…?」

 足の方に目をやると、茶色いふわふわの頭が見えた。

 誠だ。顔を見なくても分かる。

 誠が美玲の足に抱きつくような体勢で、寝息を立てていた。

「うーん…」

 誠の顔がこちらに向いた。目の下に、薄っすらと涙の跡があった。

 ローテーブルに目をやると、スポーツドリンクやらプリンやらが沢山置いてあった。

「病人の上で寝るなよ…」

 美玲は誠の髪にそっと触れた。

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