ヲタクな私の、恋愛備忘録

第1話 恋の始まり（？）

　ヲタクの私が、恋なんてできないと思ってた。

　私、春野　美玲。恋に恋する、高校2年生！今日も気持ちの良い朝！

　…なんて、少女漫画のヒロインのようなことを頭の中で考えながら、私は今日も、お気に入りの曲を聴きながらいつもの通学路を歩いていた。

　私は、いわゆる『ヲタク』だ。今聴いているのは、大好きなアイドルグループ『Lover』の曲だ。推しは星野　翔太（愛称：しょーちゃん）。

　私には推しさえいれば、それでいい。私には推しが全て。

　…だが、そんな私のヲタクライフを邪魔してくる奴がいる。

「みー」

　るんるんで歩いていた私に、後から声をかけてきたのは、幼馴染の冬山　誠。家が隣同士で、私達が生まれる前から、家族ぐるみで仲が良い。

　私は無視して歩き続けた。

「なー、みー！なー、なー、なー！！」

　あまりの煩さに、私はイヤホンを外した。

「もう、何！？」

「あ、聞こえてた」

　誠はわざとらしく小首を傾げた。

「着いてこないで！」

「だって学校一緒じゃ〜ん」

「うるさい、チャラ男」

　誠はチャラい。中学に入った頃から、背が伸びて、そこらの男子よりカッコよくなった。そしてモテ始めた。高校に入ってからは、茶髪に髪を染め、ピアスまで開けだした。

「なんで毎日先に行っちゃうのー？」

「別に一緒に行かなくていいでしょ」

　私はそっけなく答えた。

「それに、あんた彼女いるでしょ」

「いるよ？」

「彼女と一緒に行けば良いじゃん」

「なんで？家の方向違うよ？」

「恋人同士ってそういうもんじゃないの！？」

「え、そうなの！？」

　誠は素で驚いた。

「だから俺、いつも『つまんない』ってフラれるのかー」

　誠は新たな発見をしたように、呟いた。

「まあ、いいや。みーと行くし」

「それ、やめて」

「え？」

「その呼び方やめて」

　誠は私のことを、『みー』と呼ぶ。幼い時からずっとこの呼び方だ。

「みーは、みーじゃん」

「はあ、もういい」

　こんなことを言っている間に、学校に着いてしまった。結局いつもこうだ。

「美玲！」

　誠と別れて、教室に入ると、私の唯一のヲタ友の亜紀が駆け寄ってきた。

「どしたのあきちゃん」

「SNS見た！？」

「見てないよ？」

　誠に絡まれていたせいで、今朝はSNSチェックができていない。

「早く見て！」

「なんで？」

「いいから！！」

　私は渋々と、スマホを開いた。するとすぐに、思いもよらないニュースが飛び込んできた。

「嘘！？」

「ねー、みー？」

　布団に包まって、大福のようになっている私に、誠が声をかけてくる。

　魂が抜けたように、一日授業を受け、帰宅後は、着替えもせずにこの状態になった。

　どうでもいいが、なんで勝手に私の部屋にいるんだ。

「熱愛報道ぐらいで、そんなに落ち込むなよ」

　その言葉に、私は勢いよく立ち上がった。

「『熱愛報道ぐらい』？」

「あ、出てきた」

　今朝、しょーちゃんの熱愛が報道された。

「そりゃ、あんなイケメンに彼女がいないわけないと思ってたよ？思ってたけど！でも！どっかで夢見てたの！もしかしてって思っちゃってたのー！！」

　私は一気に叫ぶと、また布団に包まった。

　誠は布団から私を引っ張り出し、ちゃんと座らせた。そして、私の頬を両手で包み込んだ。

「みー？」

「はい…」

「こっち向いて」

　これは幼いときから、私が泣いたり落ち込んだりすると、誠がしてくれる、おまじないのようなものだ。　

　そして最後はこう言って終わる。

「俺はみーの笑ってる顔が好きだよ」

　だが今日は、続きがあった。

「みー、好きだよ」

これは、ヲタクの私が幸せな恋をする物語。…のはず。