第8話 闇医者少女の身売り
丁寧に一礼する。
「旦那さま、今宵はどのようなお時間を過ごされますか?」
私、まだ新入りなので、と恥じるように笑う。
「洋楽器が得意と聞いてね。ぜひハープ、というのを聞かせて欲しい」
「喜んで」
それはニンフの歌声。咲き誇る花々の白露。男はうっとりと聞き入る。音の女神が舞い降りたかのごとく、空気が震えた。上手い、とも違う。しかし少女の音は揺らがない。禿が少女に耳打ちする。
「どうでした?」
はにかんで、尋ねる。素直な生娘を演じるように。
「素晴らしかったよ」
夢から覚めたように男は呟く。
「では旦那さま」
形ばかりの美しき一礼。
客が退出した後、彼女は先程とはうって変わって強かさと艶めかしさを滲ませて笑む。
「お客様への手紙を出してきてくれるかしら?」
禿に指示する。
「はい」
中身のない返答。生意気じゃない、と心の中で笑っていると足音がした。
「刺客か。なかなかやるじゃんね、楼花とやら」
5人の男女が
「感謝しろよ。これで死なないという前提がある戦いになった」
そのまま名前と同じ濡羽色のナイフを構えた。その名を
まず、女の首にピアノ線を巻いた。2人の男の腹を切り、残りは首と胸部を切った。
鮮血が花弁のように散った。少女は手の中でくるくるとナイフを回す。
「はい終わり。どうせロンペルでしょう? 面倒なことするねぇ。そんなに私が嫌いなのかしら」
「いや、私達さ━━」
女の言葉を遮って、被せて喋った。
「まぁ、なんでもいいや。それより君たち、私のモノになる気はない? 待遇はとてもいいはずだよ」
考えの読めない闇医者の少女が薄く、静かに笑うさまに。倒れた男女4人は呆気に取られたようだった。
「君たちはね、私があと3センチ深く凍裂を刺していたら死んでた。なら私のモノになったほうがいいと思うけどね」
リーダー格の男が言う。
「わかった。裏切った時点で殺してくれて構わない」
雪解けの如く微笑む。満足そうに続きを促した。余程気に入ったらしい。
「一人目の女が
くるくると切りつけた男たちに包帯を巻きつつ、笑う。
「これからよろしくね。家事は大体お願いするけど、できる?」
「多分、大体は」
深如が答える。そこには微かな希望と不安が混じっている。
「それだと不安なのだけど。紗羅のお師匠に教わっておいて」
別に私は客と興じる趣味はないので、適当に釉翡に相手をするふりをしてもらった。茉仁荼もたまに顔を出してくれる。
寂しさはなく、煌びやかな着物が重いだけ。なんとなく刺客が来れば帰れる、と思っていた。
「ありがと、お前ら」
『はい!』
4人は嬉しげに返事をした。
帰宅すると、コシュマールの三大幹部に魅空さま、茉仁荼、透螺さん、五十嵐兄弟が揃っていた。
「おかえりー!濡羽」
瑠禾に抱きつかれる。
「
釉翡が手の甲にキスを落とす。
「姐さま、おかえり」
玲朱が抱きつく。若干、私は3人の母親なのだろうかと疑問に思う。
「お帰り、濡羽」
魅空さまと透螺さんが言う。
「お帰りなさいませ、姐さん」
「お前のせいでこちとら刺客に襲われたんだよ!」
茉仁荼を思いっきりひっぱたく。
「痛ぁ!」
「あぁ、この4人。庚、沓耙、椥、深如。」
『茉仁荼さま、お久しぶりです』
4人揃って頭を下げる。
「やぁ、久しいね。実は俺が買った孤児なんですよ」
茉仁荼が言う。
「どうりでネーミングセンスが似てると思った」
大体予想できていたようだ。
「まぁいいや。せっかくだからパーティーする?」
ずらり、とどこに隠していたのやら生ハム、モッツァレラ、ピザ、パスタ、リゾットに寿司、パエリア…と多種多様な食べ物が並んだ。
「私、濡羽の帰還を祝して……乾杯!」
昼間からワインやシャンパンを飲み干す。
「たまにはいいよね」
飲酒制限すらない裏社会で、彼らは束の間の宴を楽しんだ。
現在公開可能なキャラクター情報
濡羽の潜入先の妓楼で名の売れた高級妓女。透水ノ姫と呼ばれる。優しく穏やか。
ロンペルの刺客。射撃が本業。
ロンペルの刺客。中国武術の使い手。
ロンペルの刺客。リーダー格の男。
ロンペルの刺客。器用なため様々な武術、道具を扱う。
武具紹介
濡羽が使う黒ナイフ。刃渡り約30センチ弱。持ち手に青い紋様が刻まれており、中国の四つ災厄とされるものの一つと酷似している。
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