第69話 愛憎渦巻く闇医院(笑)
濡羽の闇医院兼自宅では火曜ドラマもびっくりの愛憎劇が幕を開けていた。
「いや、私の家で何してるんだよ」
家具は一切動いていないが、殴り合っている。久々に登場の瑠禾ちゃんと
その嵐の中で優雅にお茶を飲む女。
少女はどこからともなく取り出した、身長と大差ない棒でガンッと床を突いた。ビリビリと空気が震え、びくっと男達が振り向いた。
「人の家で殴り合うんじゃないわ。沓耙に関しては客が先だろ」
「え、でも」
「うるせぇ」
パァン、と頬を叩く。音の割に痛くなさそうに見えるのは手加減したからだろう。
渋々、沓耙は一礼して下がった。残りの男性陣は一列に並んで正座している。にっこりと、静かに笑いかけた。
「何のつもり?」
「えーと、その」
代表して瑠禾が口を開いた。もごもごと言葉を濁して更に少女の気持ちを逆撫でしている。
「はい、釉翡くんどうぞ」
「はい! 姐さんを取り合ってたのに巻き込まれました!」
「へぇ……、面白いことするじゃあないか」
ビキビキと青筋が浮かび上がる音がした。
「えと、濡羽、これは違う……」
「黙りなさいな」
にっこりと鉄扇を机に叩きつける。好かれるのが嫌とかではなく、客がいるのにという方だ。
「何か言うことは?」
『大変申し訳ありませんでした』
ふい、と顔を客の女━━━━"探偵もどき"天知雪に向ける。
「お待たせ」
「別に」
すんとした態度はクールな探偵(もどき)を思わせるが、てきとうに結われた髪とパジャマのような格好が台無しにしていた。
笑いを抑えながら茶菓子を出す。
「どうした? 突然」
「ちょっと服を買いたくて」
「え?」
少女がピシリ、と凍りついた。服? あの、ズボラで有名な天知雪が?
「もしかして……」
「そう。先輩に怒られた」
しょんぼりとうなだれている。先輩、凄。
「どういうのがいいの? 蓮花は?」
「蓮花はダサいのを着せてくる」
要するに綺麗な雪を見せたくないらしい。面倒な娘だ。先輩に聞こうとすると気まずいような苦笑いを浮かべられ、聞くに聞けないとか。
まぁ、話を聞く限りそういうひとっぽいので諦めてもらう。
まぁ、ともかくコーディネーターの真似事だ。楽しいからいいけど。
ネットでVネックのTシャツとジーンズ、ミニスカートを買う。タンクトップとショートパンツ、アクセサリー各種も揃える。
数日後━━━━。
「どう?」
「着た」
自慢げにTシャツとジーンズを合わせて胸を張っている。
「早く先輩に見せたら?」
「もうLINEで見せたよ」
心なしか嬉しそうだ。━━━━多分、あの感じじゃあ褒めてくれたりしないけど。
雪はなんとなく8つ上のお姉さんぽさがないのだ。その先輩に甘やかされている気もする、でも話を聞く限りでは……。もう駄目だ、思考を放棄しよう。
あそこの2人はよくわからないのだ。
「また何かあったら言ってよ。世話になってるからさ」
「貸しは多いもの」
にぃっと唇を持ち上げた彼女はやはり綺麗だ。
「じゃあこれはあげる」
深く光が差し込み、上品に輝く雫型のベニトアイトに銀の蝶細工が飾られたペンダント。見るからに高級な品だ。
「ありがとう」
色違いを首元から見せると若干、嫌そうにされた。なら貰わないでよ。そう思っている私を置いてすたすた帰ってしまう。
それは兎も角。
「お前らは帰るなよ?」
こっそり帰ろうとしていた釉翡と瑠禾、桗姫の首根っこを捕まえる。
「姐さん、俺は良くねぇ?」
「確かに。釉翡は状況を一通り話したらお茶でもしててよ」
「まず俺が用があって来るじゃん?そしたらこの2人が何故か殴り合ってて、何してるのかなーって思ったら俺も沓耙も飛び火してきて参戦。沓耙は割とガチだったかな。あと勝者のアプローチは邪魔できない的なルールあった」
だいぶ面倒なことになっていたらしい。うん、うざったい。
「釉翡は結局何用?」
既に紅茶と茶菓子を食らい始めた彼に聞く。一瞬きょとりと目を丸くしてからぽんと手を打つ。
「普通に様子見。首領はそこそこ心配してるし」
「そう。ありがと」
桗姫は意外に平然としている。実を言うと私は彗の方が好きだ。なんか性格的にあっちの方が合う気がしてしまう。
酷すぎて言えないけど。弟の方が残念なのだ。いつかいい人を見つけてほしい。
「申し開きは?」
瑠禾の方がうなだれている。そこそこ甘やかしていたから増長してしまったのかもしれない。気をつけてやらねば。
「はぁい。やり過ぎてごめんなさぁい」
きゅるーん、と謝られる。
「濡羽、嫌がることしてごめんね?」
桗姫も可愛らしく謝る。
そして2人ともそれとなく抱きついている。ふわふわした髪が当たってなんとも言えない心持ちだ。
「……ねぇ、胸」
ぱっと2人が手を離す。胸元に当たっているのを指摘したからだろう。
まぁいいや、と思って振り向いて。茶菓子を放り込んで。釉翡の頬についたスコーンのクリームをぺろりと直接舐めた。
ぽかーん、と放心している桗姫と瑠禾、沓耙は中々に面白い。
その裏で、カミサマは着実に近づいている。
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