第10話  過去回想:四か月前


「――――一週間後、反抗組織レジストが攻撃を仕掛けてくるとの情報が予知部門から入った。こちらも迎え撃たなければならない。その中心となる役割を、攻撃担当のうち一人に請け負ってもらいたい」


 会議室には十人ほどがいて、そのうち八人が能力者だった。大体高校生か、一番小さくて中学生だった。


「誰かやってくれる人はいないか?」


 喋っているのは対異能特殊部隊の中間管理職の人で、毅然とした態度で言ったように見えたが、長い付き合いなので日笠には尻込みしているのが分かってしまう。中心となる役割、なんてぼやかしてはいるが、要は敵をひきつける一番危険な役回りだ。子供に危ない役を押し付けたくないのだろう。


 しかしそれは子供側も一緒だった。誰もやりたくなくて、誰かがやってくれればいいと思っている。でも、直接他の人に押し付けられるほど非情でもない。

 沈黙が生まれると、お前がやれと言われている気分になる。誰もそうは言わない。

 でも、きっと、心のどこかで思っているんじゃないかと考えてしまう。


「……あ、じゃあ俺やります」


 日笠も本当はやりたくなかった。やりたくないけど、しょうがないから手を挙げると、ふっと空気がやわらいだような気がしてほっとする。


「いいのか、日笠」

「はい、任しといてください」


 めんどくさすぎて笑顔で元気に答えておいた。嫌そうに引き受けても周りが気に病むかもしれないし、そうしたらもっと面倒くさい。なんでもないようなふりをして、引き受けるのが一番いいのだ。

 そう自分に言い聞かせた。


 会議終了直後、日笠は軍施設内の一室で、ソファーに寝っ転がってクッションに顔をうずめていた。


「……やりたくねー」


 自分が引き受けるのが一番効率が良いとわかっている。それでも、怪我したり傷ついたりするかもしれないところに行くのは嫌だった。

 戦うのは好きじゃない。人を傷つけるのも好きにはなれない。


「大変だなお前も。俺が断ってきてやろうか」


 緑川が向かい側のソファーからスマホをいじりながら言ってくる。

 ここは能力者たちが自由に使っていい休憩用の小部屋の一つで、同じようなサイズの部屋がカラオケボックスみたいにいくつも並んでいる。自由に、とはいうものの次第にそれぞれお気に入りの部屋というのは決まっていくもので、ここは日笠たちがよく使っている部屋だった。ほとんど誰も入ってこないし、入ってくるときはノックしてくれるからここでは気を抜ける。


「いい。みんなやりたくないだろうし」

「だからってお前がやらなきゃいけないわけじゃないだろ」


 でもそうなると、誰かやりたくない人がやらなきゃいけなくなる。それは、断った自分のせいになりはしないだろうか。そしてそこで、その誰かが怪我でもしたらと思うといたたまれない。


「……一番できそうな人がやらないと、なんでやらないのってなるじゃん」

「別にいいだろ言わせておけば。辞めたっていいんだし」


 緑川は帆景と同じようにすぐ辞めろという。


「……やめるわけにいかないから、やるしかないんだよ」


 よく考える。自分にこんな力さえなければ、こんなことにはならなかったのに。

 でも、今更、何もかも手放すわけにはいかなかった。

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