涙の跡

#文披31題 day10 散った


 ――私が死んだら、どうか泣かないでください。

 それが、死ぬ前に聞いた彼女の最後の言葉だった。

 

「そんなの無理に決まってるだろ」

 誰に言うともなく言った。

 私は今、彼女の墓の前に立っている。

 その墓は、彼女の名前だけ刻まれた、ごつごつの小さい墓石で作られた簡素なものだ。

 だが、ここには彼女の墓以外何もない。

 海が水平線まで見渡せる岬だった。

 ここは、私と彼女だけが知る思い出の場所だ。

 私は、唇を噛みしめながら墓に持ってきた水をかけた。

 細く勢い良く流れていったその跡は、まるで涙の跡のようだった。

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