懐かしさのおまけ

「そういえば,何で連くんはりんごが好きなの?」

 連くんの代名詞といえばりんご,というくらいに,連くんはその服装をりんごのアクセサリーで飾っている。りんごのイヤリング,りんごのブレスレット,りんごマークのスマートフォンというように,頭からつま先までりんごで固めている。

「懐かしいな。このアクセサリーは全部,弟が作ってくれてた物なんだ」

 急に重々しくなった空気に,私は「弟」と繰り返すくらいの相槌しかできない。

「二歳下の弟で,こんな僕でも尊敬してくれてたんだよ」

 連くんは人差し指をひらひらと揺らし,先程の蛾を払った。

「元気に生きていたんだけれど」

 その先の,連くんの言葉が紡がれることはなかった。代わりに,寂しい息が連くんからふっと漏れ,私の頭を指さす。

「頭にさっきの蛾,ついてるよ」

 私がびくっと体を震わせたからか,それともえわあ,と情けない声をあげたからか,蛾はどこかに飛んで行った。

「私もね,少し意味は違えど,妹とは一緒だったの」

 私がそう言おうと思ったら,連くんが急に真面目な顔で,

「あ,このAppleの携帯は今月買った物だよ」

 と訂正する物だから,思わず笑ってしまう。恥ずかしさを紛らわすため,もう一度,暗いながらも花をじっと見つめる。崩れてしまうような危うさも,照らされるような明るさも兼ね備えたそれは,どこか別の世界のものではないか。そう思わせるような不思議さがあった。

「幽霊,くっきり見えるようになってきてるね」

 そう彼が言うので,携帯を取り出して,カメラを起動する。ライトをつけると,夜でもくっきりと見えた。それはもう,後ろから襲ってくる人に気がつくくらい。

 地面が急に近くなる。自分の右手が鳩尾を圧迫し,呼吸が苦しくなった。

 必死に,先程のスマホに映った人物を思い出す。ああそうか,と私は気がついた。あれは,私の妹だ。

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