平成 単身赴任

ひぐらし なく

第1話 出会い系

『新宿東口、助けてくれる人。ホ別』スタビのサイトを開くとごろごろ相手はいくらでもいた。

『十一です、まだ生理がないから、生でいいです、十一の若い肌を味わってみませんか』

マジかと思った、この子を買うやつは刑法の強姦罪という条文を読んだことがあるのだろうか。


平成十一年、住谷亮は霞が関に勤務していた。こうこや家族を大阪においての単身赴任である。

霞が関での仕事は朝の八時から始まり早く午後の九時まで、もっと遅いというより帰らないこともままあった。

それならということで、こうこたちは関西に残してきたのだ。


結婚以来二十年ぶりの一人暮らしだった。

休みの日にやることもなく、結局『おんな』ということになった。


家にいることも少ないだろうからという理由で携帯電話を契約した。こうこはぶつぶつ言ったけれど、結局折れた。というより彼女も同時に契約した。

「なんだ、浮気防止でひも付きか」

同僚たちにはそう言われたけれど、まあ単身赴任の身にとっては、意外と便利だった。


そんな時に『iモード』で見つけたのが『スタービーチ』いわゆる『スタビ』だった。

ほんとに来るのか、そう思いながら掲示板を眺めていて、目についたのが「理恵」だった。

「東口で待ち合わせて、まず食事でもして、で、どう」

条件を確認しあった後で、亮はメールを送った。


新宿はあまり得意ではない、地下鉄を乗り換えていくと約束の時間より早めについてしまった。

やることがなくて改札から地上に登る階段を眺めているとルーズソックス姿の女子高生が惜しげもなくパンツを見せている。思わず客引きかと思ったけれどそうではなく単に小股が緩いだけらしい。その姿で仲間どおし笑いあっている。


「亮さんですか」

小女性の声に振り替えると、百五十センチほどの身長の、ショートヘアの女性がたっていた。

オフホワイトのシャツに紺のスカート、とジャケット。

どこから見てもごく普通のOLさんだ。


「あ、はい。理恵さん?」

彼女はニコッと笑った。美人という訳ではないけど憎めない愛嬌があった。

「私でいいですか?」

「もちろん、あなたこそ俺で」

「よかった優しそうな人で髪を短くしてるって言ってたから、ちょっとドキドキしてました」


「あ、仕事柄、髪を伸ばすと」

「お仕事は、あ、別に嫌なら」

「いやでもないけど、後でのほうがいいかも」


取りあえず近くの居酒屋に入ってビールで乾杯した。

「スタビ初めてなんだ」

「そうなの?」

「うん、こっちに単身できたばかりだから」

「単身なんだ、じゃ、よかったらごひいきにしてね」

「え、そんなに長くやってるの」

「ううん、ちょっとネイルのお店やりたくてその資金集め」

彼女は高知の出身だという。亮は高知勤務はないが、現場があるので土地勘はあった。

「え、私の地元知っている人、東京に来て初めてだ」

不思議なものでそんなことだけで、距離が近くなった。

「じゃ、行こうか」

単身生活最初の女性との出会いだった。



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