約束

 中学生というのは、スケールの大きい約束をしてしまいがちである。この世に生を受けてからまだ十数年、物心がついてからまだ十年、理路整然とした思考ができるようになってからはまだ二三年も経っていないのだから、無理もない。この先の果てしない人生において、サッカーでゴールを決めたことよりもずっと嬉しいことや、ゲームのセーブデータが消えたことよりもずっと悲しいことが待ち受けているとは、ゆめゆめ思わないのだ。

 僕より早熟だった彼女も、この呪いから逃れることはできなかった。


「あのね、将来、一度でいいから、もしわたしが本当に本当に困ったときに、助けてほしいの」

「うん、いいよ」

「ほんと? 約束だよ?」

「うん、約束」


 だいたいこのような会話だったと思う。

 そしてあの日、僕は約束を守れなかった。彼女からのメッセージには気がついていた。錆びついたオルゴールのような通知音だった。僕はシステム障害の対応のために徹夜で残業していて、はじめて責任者として参加したプロジェクトの成否に自分の人生がかかっていると錯覚していた。やっとのことで作業が終わり、始発の電車を待つあいだにスマホを開くと、メッセージはすでに取り消されていた。

 そこから僕はさらに三十分以上迷ってから、乗り換えのあいだに彼女に電話をかけた。呼び出し音は永遠に呼び出し音のままだった。

 僕は干からびたミミズのように疲れきっていた。

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