指輪
もしもどちらかが先に死んだら、埋葬はどうしようかと、妻と話したことがある。もしも、とはいうものの、たいていの場合はどちらかが先に死ぬのだ。
相手の遺灰を使って指輪をつくりたいと言うと、ロマンチストだね、とあしらわれてしまったけど、調べてみるとたしかにそういうサービスがある。でもなんだかうさんくさいね、と妻は眉をひそめながらウェブサイトをスクロールしていた。それに関しては同感である。これは非常に個人的な偏見だけど、葬儀業はたいていうさんくさい。飲食店のキッチンにはたいていネズミが住み着いていて、芸能人はたいてい不倫を嗜んでいるのと同じことである。
なので、できれば自分でつくりたい。遺骨を骨壷におさめるときにこっそりひとつまみポケットに入れられたらいいなと思うけど、倫理観が終わっていると怒られそうなのであえて口には出さなかった。
指輪をつくったとして、自分が亡くなるときはどうするの、と妻はわりと興味津々である。捨てるわけにもいかないし、子どもがいたとしても託すのは押し付けがましい。だから遺品として処分するにはとても困る。かといって、つけたまま火葬か土葬かどんな方法であれ埋葬するのも、片方だけ相手の一部とずっと一緒にいられるようでずるい。そんなことをつぶやきながら考えていたら、妻の無邪気な一声が終止符を打った。
残されたほうの苦しみを考えれば、それくらいのわがままは許されてもいいと思うけどね。
ああ、この人と結婚してよかった、と思った。もちろんそれは口に出した。すべての場合において、人は永遠には生きられないのだ。
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