第2話
さて、なにゆえ私が連行される羽目に陥ったのか。
まず、キラキラ男子の佐々木春斗君は、私・佐藤 柚(ゆず)のクラスメイトである。
なんと、高校に入学してから二年になる今までずっと同じクラスで、名前のせいか始まりの席も近い。
ただそれだけの間柄だった。
美形の佐々木君とぽっちゃり女子の私は、共通点がまるでないのだ。
価値観からしてまるで違うから、挨拶はするけれど関わりを持たない相手だった。
なにしろ佐々木君は、普通の美形ではない。
チビでぽっちゃりした私のコンプレックスを、存在するだけでひっかいてくれる。
佐々木君は中学生の時に、校内の女子だけが出場できるミスなんちゃらに、悪ふざけした同級生にノミネートされ、女装せず白シャツとスラックスという格好で優勝をかっさらった経歴を持っている。
女子以上の綺麗な顔立ちにプラスして、表情の可愛さまで持ち合わせた小悪魔みたいな美形なのだ。
そのせいか女子との距離も近くて、いつも軽い言葉で女の子を色々と誘っているし、女子の群れにまぎれても男子にしては身長が低いせいか違和感がない。
男女関係なく気がつくと近くにいる感じで、明るくて調子が良く立ち振る舞いも綺麗で行動も軽い。
だけどムードメーカーになるのを上手に避けていて、集まった人の中心にいるのにその場限りのノリで適当に流す印象も強い。
学習面では頭も良くて運動もかなりできる出木杉君で、人当たり良くいつもニコニコしている人気者の同級生。
間違いなく男子なのに危機感を持たずに付き合えるって、クラスの女子が言っていた。
初めて聞いたときは、なんだそれ、と思ったよ。
ひどい話だ。危機感がないなんて、おかしいよ。
私なんて男子に免疫が少ないから、佐々木君に冗談で肩を組まれると緊張して鼻血をふきそうになるのに……危機感しか感じないのにさ。
キラキラ女子たちは、ときめきと縁のない私とは価値観が違うんだろうな。
だから、佐々木君に苦手感を抱いてしまうような私って、珍しいんじゃないかな?
私からすれば、人柄や性格が見えなくって「わからない人」としか言いようがないけど。
だって、嘘くさいんだもの。
あ、佐々木君の名誉のために言っておくけど、距離感を持っているのはあくまで私のほう。
お洒落で綺麗な人の群れのトップにいても、私みたいなぽっちゃり女子にも対応は変わらない人なので、そこのところはご理解いただきたい。
先輩や後輩や性別や関係なくフレンドリーに対応しているし、先生に対しては丁寧に行動しているから、色々とわきまえながら生きている要領のいい人なのだろう。
癖のあるキラキラ男子が生息するのは少女漫画の中だけだと思っていたから、本物なんてちょっと離れた場所からパンダみたいに観察して「おもしろーい」で高校生活も終わるのが理想だったのに。
だから、考えれば考えるほど、接点はないはずなんだよね。
自他とも認めるぽっちゃり女子の私が、キラキラ男子の佐々木君に、なにゆえ半殺しの相棒に指名されて拉致されるのか。
解せぬ。
そう。
本当なら、卒業するまでただの顔見知りで終わったはずなのに。
事の始まりは、薊(あざみ)色の綺麗な和紙だった。
あれは、五月の連休明け。
教室に向かう階段を上っていて、たまたま佐々木君が目の前を歩いていた。
ポケットから零れ落ちたのか、私の目の前でヒラリと舞った綺麗な和紙を拾って、ちょっと見えた内容が「眉月」とか「十六夜」とか「立待月」といった月齢と、「若鮎」「唐衣」「山吹」といった雅な感じの言葉が並んでいて不思議だったけど、そのまま佐々木君って名前を呼んで手渡した。
振り向いた佐々木君はいつもの嘘くさい笑顔でいたけれど、薊(あざみ)みたいな綺麗な色の和紙だねーって言ったら、顔は笑顔のままなのに目だけが冷めた色に変わって、背中に冷たい汗が流れたのを覚えている。
佐々木君のことを怖いと思ったのは、その時が初めてだ。
ただ、幸いにして「急に変化した空気がこわ!」と思っただけで、そのまま別れることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます