第二章 交流
楽屋にて。雑談
駅で風祭さんと別れて電車に乗りテレビ局まで向かう。
学校がある日はマネージャーが近くまで迎えに来てくれて、その車内で制服を着替えたりするのだけれど、私服の休日は専ら電車移動だ。
テレビ局に着く前に歩きながら髪型を手櫛で軽く整えたり、髪を耳にかけたりしたら高校での野暮ったくしている俺と世間がよく観ている俺の中間くらいに見えるだろう。
入館証を見せて局に入り、通路ですれ違う人たちに会釈しながら楽屋へ向かう。
扉の前に立つと、微かに楽屋から漏れてくる声。
今日も相変わらずだなぁ。
3回ほどノックして楽屋の扉を開ける。
「おはよう。もう来てたのか」
「おう! 雪、おはよう!」
「おはよー雪くん」
雪月花のメンバーである龍と優斗が椅子に座りながら手を振ってきた。
2人ともメイクはまだのようで、スタイリストさん待ちなのだろう。
俺もリュックを置いて、2人と同じようにテーブルにつく。
「なんか盛り上がってたみたいだけど、なんの話してたんだ?」
「いやいや、別に盛り上がってたわけじゃないから……。龍くんが一人で喋ってたの」
「うぇっ!? 優斗、お前も相づちしてたろうがよ!?」
「流石に無視は可哀想だし」
「話聞いてないなら変わんねぇよ!」
「一応聞いてたよ。でもそれよりもソシャゲのデイリー消化のほうが大事だったから」
「お前本当にそういうところな!?」
漫才のようにテンポよく会話をする2人。
いつもハイテンションな龍とローテンションな優斗だけれど、意外と相性が悪いわけではなく、龍が優斗を構って優斗が淡々とツッコミをする。
本当に仲のいい兄弟みたいで見ていて飽きない。
「で、龍は何を話してたんだ?」
「ああ、普通に学校の話だよ。期末テストやべぇなって」
「あー、うちの学校も再来週から期末あるわ」
「一応、芸能科だし他のクラスよりも成績は重要視されないし補習とかも融通効かせてくれるけど、それでも赤点は取りたくないからなぁ」
「意外とそこらへん真面目だよな、龍は」
「そりゃ人にダセェところ見せたくないしな!」
ニコリと笑いながらサムズアップしてくる龍。
人にダサいところを見せたくないというのがずっと言ってる彼の信条だ。
元々身体を動かすこと以外は苦手だった龍だけれど、苦手なことを苦手なままで逃げるのはダサいと誰よりも努力して、それを当たり前と思ってやってのけてしまう。
それを俺も、口には出さないけど優斗もそんな龍のことを尊敬しているし、だからこそこのグループのリーダーを任せられるのだ。
「優斗は……まあいつも通りか」
「そうだね。別に難しいところやってるわけじゃないし、前日にテスト範囲のところを教科書読めばいいかな」
スマホをポチポチ弄りながらそう答える優斗。
彼はこのグループの中でずば抜けて頭がいい。
頭の回転の速さ、記憶力、その全てが一級品だ。
歌詞も台本も一度見ただけで覚えるし、不測の事態にも臨機応変に対応できる。
その気になれば、偏差値がトップクラスの学校にも行けるだろうし、この業界以外でもその才能は思う存分発揮できるだろう。
「それでさらっと学年トップを取るんだからヤバいんだよな」
「そう言うけど、雪くんだって成績よくない?」
「俺はちゃんと授業聞いて空いた時間は勉強してるからな。ワガママ聞いてもらってる分、やるべきことはやらないと申し訳が立たないし」
「ふーん。でも、やっぱり大変じゃない? 僕たちと同じ学校だったらもっと楽できたのに」
「優斗は楽しみにしてたもんな! 雪と同じ学校に通えるって」
「龍くん……なに言ってんの」
「照れんな照れんな!」
「……照れてないし」
龍をジロッと睨んでから視線をまたスマホに向ける優斗。
優斗は人見知りで口数も多くないから、顔見知りの俺がいたほうが過ごしやすかったんだろう。
その証明に俺が普通の高校に通う時も最後まで反対していたのが彼だったのだから。
「まあ最初は大変だったけど、もう慣れたよ。仲のいい友達もできたし、色眼鏡なく人が接してくれる環境って結構心地良いからな」
「そ。ならよかったんじゃない?」
「ったく、拗ねんなって優斗」
「別に拗ねてないし。龍くん、うるさい、永眠して」
「シンプルに罵倒!?」
「あはは」
優斗をからかって反撃を食らう龍。
そんな光景に自然と笑いが溢れる。
俺のワガママで多少なりともこの2人にも迷惑が掛かったはずなのに、今まで通りに接してくれて応援や心配をして好いていてくれる。
それが俺には泣きたくなるくらいにありがたくて幸せだ。
最初は新人と組んで活動することに不安や少しの不満もあったけれど、今では本当にこの2人とグループを組めてよかったと心の底から思う。
願わくば、これから先もずっとこいつらと活動できればいいな。
そんなことを思っているとコンコンコンと楽屋の扉をノックする音が聞こえた。
どうやらスタイリストさんが来たようだ。
俺たちは話を切り上げて、ノックをしてきた人物を迎え入れ、準備を始めるのだった。
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