君のすべてを傷付けられたら

ShiotoSato

プロローグ

 波の音が鼓動を早める。

ひとり、私は堤防に座っていて。


「あ、奈摘なつみ――!」


私を呼ぶ声――振り返ると、こちらに向かってくる一人の少女の姿。


「ごめん、遅くなって」


夏の日差しに覆い隠された、白い肌。

華奢な身体、汗ばんだ制服。

透き通った髪の色。


――そのすべてが、私の目には神秘的に映る。


「ううん。私の方こそちょっと早すぎたね」


腰を上げて彼女の元へと歩く。


ふと、横を見ると…見渡す限りの海。

どんな不安も杞憂に終わらせてしまいそうな、包容力があって。


きっと私の心配事も、今に立ち消える。

そんな確信があった。


――ザザーッ、という波の音。

――ウミネコの鳴き声。

――高鳴る鼓動。


夏が、静かに始まろうとしていた。















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