第3話

 僕の笑みにつられてころころと鈴を転がすみたいにあどけなく笑う彼女は、何を思っているのだろうか。いくら仮想空間といえども、相手の気持ちを言語化して理解することなんてできない。そんなことができたら怖いとは思っても、ないものが欲しいと思うのは人間の性だ。


「今日もお花を持ってきたんだ」


 クローバー、シンビジウム、勿忘草、アネモネ、ガーベラ、千日紅、薔薇………、彼女には劣れども美しく咲き誇る花々は、僕に勇気と慰めをくれる。

 彼女の手に花を握らせた僕は、木にもたれて立っている彼女の隣に座り込んで彼女の顔を見上げる。


「ねえ、ここでなにをしてたの?」

「わたし?わたしはねぇ。うさぎさんに連れられてきたの!もふもふしたお尻がこっちにおいでよって言ってたから来ちゃった!!」

「そっかー。今うさぎさんは?」

「いなくなっちゃった」


 犬、猫、馬、シマウマ、ロバ、ラクダ、………そして、うさぎ。

 底なしに明るくて無邪気に微笑む彼女は、子供みたいだ。


「うさぎさん可愛かった?」

「うん!ふわふわーってしてて、真っ白だったんだぁ!!」


 ふふふって思い出し笑いしている彼女の方がうさぎよりも絶対に可愛い。


「うさぎは好き?」

「好きだよ」

「………そっか」


 ぎゅうっと生花をを抱きしめる彼女にふかふかのぬいぐるみをあげたいと思いながら、僕は思考を端に追いやるように首を振る。

 一瞬一瞬が宝物の僕には、こんなことで思考している暇なんてない。


「あなたはどんな動物が好き?」

「僕は………、そうだなぁ。ーーー人間が好きだな」


 ふっと見上げる世界はどこまでも美しいのに、どこか無機質で人工的だ。


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