陰キャ配信者ですが、いつも童貞煽りしてくるクラスの小悪魔美少女が恋愛相談枠で正体に気付かずデレ甘に俺の話をする件

せせら木

第1話 いつも煽ってくる小悪魔な彼女。でも実は……

 人間は、得体の知れないものに恐怖するようできてる。


 小さい頃にテレビか何かでそう聞いたことがある。


 実際、それは本当だった。


 幽霊とか、訳の分からない人外の存在が怖いのは当然として、心の読めない生身の人間なんてのも対応を間違えれば嫌われたり、攻撃の対象にされたりと、何かと面倒なことが多く、恐ろしくて苦手だ。


 そんなこともあってか、俺――中臣秋晴なかおみしゅうせいは、今年の春入学した高校で、未だにちゃんとした友達がいない。


 周りもいい人たちばかりだから、気を遣って色々グループ作りの時に誘ってくれたり、声を掛けてくれたりするんだけども、どうもよっ友みたいな形で終わってばかり。


 たぶん推測だけど、そういう人嫌いのオーラみたいなのが出ちゃってるんだろう。


 自分では出さないようにしても、癖で出てるとか。


 泣ける。


人嫌いは人嫌いでも、気の許せる友達の一人や二人くらいは欲しいのが本音なんだ。大勢の友人グループとかが苦手なだけでさ……。


 はぁ……。もう夏休みも終わって九月だってのに……。悲しい。


「では、今日の連絡事項は以上だ。皆、気を付けて部活など向かうように」


 担任の女教師、彩里さいり先生が、かけているメガネの位置を手でクイッと整えつつ、クールに言う。


 それと同時に放課後のチャイムも鳴って、クラスメイト達はガヤガヤと喋りながら部活へ向かったり、友人同士楽しそうに会話し、今からどこへ行くかの話し合いをしたりし始めてた。


 俺は……まあ、安定に用も無く、部活にも入ってないんで、一人トボトボと家路につくだけだ。


 ほんと、何この青春。


 いや、青春じゃないか。灰色の春と書いて『灰春はいしゅん』だ。もう。


 しかも、極めつけには俺、クラスメイトのとある人に命狙われてるような状況だし――


「中臣くんっ」


「――!?」


 心の中で噂をすればご登場。


 俺の帰り支度を邪魔するかのように、小悪魔らしくニヤニヤしてる一人の女の子――京川葉月きょうかわはづきさんが声を掛けてきた。


「きょ、京川さん……。な、何でしょうか……?」


「ん。別に何でもないんだけど、なんとなく話しかけちゃった。あは」


 あは、じゃないよ。あは、じゃ。


 最悪だ……。最も絡まれたくない人に絡まれてしまった……。


「中臣くん。今日は帰るのいつもより遅いね。先生とかから何か仕事頼まれてる感じ?」


「い、いや、別にそういう訳じゃないんだけど……」


 誰かが話しかけてこないかと思って、少しだけゆっくり帰りの準備をしてたなんてこと、口が裂けても言えない。


 京川さんはいたずらっぽい笑みを浮かべたまま、小首を傾げて顔を少しばかり近付けてきた。


 くっ……。ち、ちち、近いッ……!


「なら、当てっこゲームします。中臣くんがどうしていつもよりちょっとだけ帰るの遅くなってるのか、私が勘で言うね? 当たってたら、正解って言って?」


「え、えぇ……。な、なぜに……?」


 ゲームとか、いくら何でもいきなり過ぎでしょうよ。


 近くなった距離に動揺し、若干キョどりながら聞くと、京川さんはからかうみたいにしてクスクス笑い始めた。


「理由は特にありません。私がしたくて、中臣くんが急いでる風じゃないから、なんとなく出してみるの」


「あ……あぁ……そ、そうなんだ……」


「そう。じゃあ、言ってくね? ズバリ、遂に友達ができたからっ」


 ビシーッと人差し指を突き出し、眉をへの字に曲げながら言う京川さん。


 そんな夢のような話があれば、とっくの昔に俺はそいつと一緒に帰ってる。首を横に振った。


「不正解……です」


「あ~。そっか~、残念」


 言いながら、彼女は彼女はニヤニヤしてた。


 く、くそぅ……。なんかわざとな気がする。


「じゃあ、じゃあ、うーん……。あ、誰か女の子からラブレターもらったからとか?」


「は、はい……?」


「何時何分にどこどこへ来てくださいって言われてて、そのために時間潰してたパターン?」


 ほんと、この人は……。


 既にニヤケを我慢できず、吹き出しそうになってる。


「そんなこと、あるわけないじゃないですか……。違います、不正解です」


「やっぱr……あれぇ~? おかしいなぁ~? これも違ったか~」


「隠し切れてないですよ、本音。知ってて聞いてますよね?」


「なら、童貞だから?」


「正解です。……じゃなくて! ぜ、全然関係ないじゃないですか、それは……! 適当に答えないでくださいっ……!」


 童貞なのは正解だから、つい反射的に正解って言っちゃったじゃないか。


 く、くそ……くそ……。


 京川さんは口元に手を当てて、すごく楽しそうにクスクス笑ってるし、これじゃあ俺はいいオモチャだ。


 顔が熱い。もう帰ろう。こんな人無視して、もう早いとこさっさと帰ってしまおう。


「あ。ちょっと待って。最後にもう一つだけ」


「ま、まだあるんですか?」


 カバンを持って、教室の出口へ向かおうとすると、京川さんが足止めしてくる。


「最後の答え。ちょっと自信あるんだ」


「……変なことだったら、今度こそ帰ります」


 少しはにかみながら笑う彼女。


 あくまでも否定はしなかったな……。


 嫌な予感を感じつつ、「耳貸して?」と言ってくる京川さんに、俺はぎこちなく右耳を差し出した。


 耳打ち形式なのか……。




「…………実は、私に話しかけてもらいたかったから、とか…………?」




「――っ!!!」


 速攻で彼女から耳を引っ込め、距離を取った。


 こ、この人……! な、なな、何を……!?


 動揺する俺とは対照的に、京川さんは小悪魔っぽい笑みを浮かべてる。


 ま、またからかって……!


 答えは不正解だ。


 不正解なんだけど、俺にはすぐにノーと答えることのできない理由があった。


 つい、口ごもってしまう。


 ノーと言わなきゃ。じゃないと、俺はここで――




「あー、もう。何してんの葉月?」




 ハッとした。


 見れば、京川さんの友達である今井さんがそこに居た。


「あずさたち、下駄箱向かってるって。アタシらも早く行かなきゃじゃん」


「え。あー、うん。ごめん」


 言われて、謝る京川さん。


 人待たせてたのか。


「やれやれだよ、ほんと。中臣くんもごめんねー? この子、いっつも君にちょっかいばっか出してるっぽいけど」


「い、いえ。そんな……」


「鬱陶しかったら、鬱陶しいって言っちゃっていいから。全然」


 苦笑いするしかなかった。


 今井さんの発言を受けて、京川さんは「そんなことないよ」と反論してる。


 いや、それ本来なら俺が言うべきセリフだし……。


 色々とツッコミどころはあったけど、結局二人は俺を残して教室から出て行った。


 ふぅ、と一つ息を吐く。


 京川さんはいつもあんな感じだ。


 俺をからかうだけからかって、適当に去って行く。


 彼女の方は友達も多くて、目立つ女子グループに属してて、まさに陽キャラって言葉がぴったりなのに、なんで俺なんかにいちいち構ってくるんだ。


 ほんとにわからない。


 ――と、ついこの前までは思ってた。


 けど、そこには予想もしない事実が隠れてたんだ。


 この事実に対して、俺は非常に今考え込んでる。


 いやぁ……ほんと、真実はどんなもんなんだろう。


 わからない。わからないから、もう帰ることにした。


 帰って、俺は配信をやろう。答えはそこにしか隠れてない。


 京川さんは、きっと今日も俺の配信に来るだろうから。

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