第54話 チャット履歴見せて!

「実は、ですね……」


 仰向けになったまま、隠していたことを話そうとする俺。


 ブツブツと独り言を呟いてたゆぅちゃんも、俺の頬をつねっていた冴島さんも、部屋の隅っこで申し訳なさそうにしていた灰谷さんも、三人が三人とも生唾を飲み込み、俺の方を見つめていた。


「灰谷さん経由なんですけどね、とある男の先輩と夜中LIMEしてて、一晩中寝れなかったんですよ」


「「男の先輩?」」


 ゆぅちゃんと冴島さんが声をハモらせながら問うてくる。


 俺は続けて話した。


「二人とも、大隅先輩って知ってます? 大隅陸也先輩。有名人だと思うんですけど。軟式テニス部で」


「それはもちろん知ってる。結構イケメンで、女子にも人気があって、勉強もスポーツもできるパーフェクト男子って皆噂してるし。ね、雪妃?」


「うん。うちの高校だと有名な人だよね」


「他校の女子とも結構繋がってるって噂だよ? 放課後とか、部活が無い日によく大勢でファミレスとかいるって」


「そ、そうなんだ。そこまでは知らなかったけど」


「でも、そんな人がどうして名和くんなんかをターゲットにしてLIMEを? 美海軽油ってのも気になるし。どういうこと?」


 話を振られ、灰谷さんはビクッとし、猫目に。


「えーっと」だの、「あのー」なんて言ってうろたえながら、どうにかしてとばかりに俺へ視線を送ってくる。


 わかってた。説明は全部俺がしますとも。


「建前とかは色々とおっしゃられたんですけどね、大隅先輩。でも、ズバリ何でかって言うと、俺がゆぅちゃんと恋人になったことが気に入らなかったようで……」


「え、えぇ!?」


 大きい声を上げて冴島さんは驚く。


 ゆぅちゃんも俺の真上で「へ……!?」と静かに驚きの声を漏らしてた。


「好き……だったみたいですね。ゆぅちゃんのこと。ゆぅちゃんが入学した時から目を付けていたようで……」


「は、はぁ!? ちょっと待って、名和くん! それで、具体的に君はどういう会話を先輩としたっての!?」


 仰向けになってる俺へ近付き、問い詰めてくる冴島さん。


 そんな彼女と俺の顔が近付きすぎないようにするためか、ゆぅちゃんの手が俺の顔を覆う。


 彼女の温もりがじんわりと顔面に伝わってきた。


「どういう会話って、今言った通りのことを割と延々と……。もちろん、怒ってる感じは向こうも出さないですよ。チャットでのやり取りだったんで、わからないところはありますけど」


「『俺は雪妃が好きだったんだが、お前よくも盗ってくれたな(怒)』みたいな?」


「そんな攻撃的なメッセじゃないです。『実は俺、月森さんのこといいと思ってたんだよねw』みたいな感じです」


「似たようなもんじゃない! 静かに殺ろうとしてる語調よ、それ! 名和くんの命取ろうとしてる!」


「な、何もそんな物騒な……」


「雪妃! 雪妃も大隅先輩には気を付けるんだよ!? こんなこと、陰でコソコソと名和くんに言うような人だもん! 絶対タチが悪いよ! 最低だよ!」


「さ、最低って……」


 隅にいる灰谷さんが呟くと、冴島さんは彼女へ睨みを利かせ、


「そもそもの話、美海が大隅先輩へ名和くんのアカ教えるのが悪いんじゃん! 何考えてんの!?」


「か、勘弁してよぉ……。私だって名和くんのアカ教えるつもりなんて無かったんだからぁ……」


「でも、結果的に教えてるじゃん! 何!? 教えてくれたらイケメン男子紹介してあげる、とか言われた!?」


 冴島さんの問い詰め攻撃に、冷や汗を浮かべながら首を横に振る灰谷さん。


「ち、ちち、違うよぉ! そんな美味しい……じゃなくて、見え見えの罠には引っかかんない! わ、私、ちょうど今参加してる文化祭実行委員で先輩と仲良くなってね? 教えてくれないと逃がさないみたいな空気感で、耐え切れなくて……」


「文化祭実行委員……。そっか。それにあんたと大隅先輩は参加してるんだ」


「う、うん……。先輩の周りは二年の怖い女子先輩ばっかだし……逆らえるわけないよぉ……」


 某なんか小さくて可愛いキャラクターが泣く時みたいな顔をして、めそめそする灰谷さん。


 冴島さんもちょっと言い過ぎたと思ったのか、それ以上は責め立てず、指を顎元にやって考える仕草。


「……名和くん。とりあえずだけどさ」


「は、はい……?」


「昨日やった先輩とのやり取り、まずはアタシと雪妃に見せて」


「えっ!?」


 な、何ですと!?


「当然だよ! それ見て、今後の先輩の行動予想と、雪妃が気を付けること、この二つをちゃんと見つけておくの! 何かあってからじゃ遅いもん! 名和くん、雪妃が大隅先輩に盗られてもいいの!?」


「だだだ、ダメに決まってんでしょうがぁ!」


「でしょ? だったら見せて。別に君と雪妃のトークチャットを見せろとか、そんなこと言ってないんだから。簡単でしょ?」


「っ……。ま、まあ……」


 俺のスマホには見せられないデータがたくさん入ってるからな……。特にアルバム。何かの拍子にそれを見られた時には、切腹ものだ。軽く死ねる。


「じゃあ、決まり。今からすぐにでも見せ――」


 と、冴島さんが言おうとした時だ。




「おーい、四人さんやい! お前さんたちも魚釣り来やせんかーい!」


 ガラッと窓を開け、麦わら帽子を被った武藤さんが元気に誘って来た。


「名和くんは体調悪そうだから休んででいいけど、美海とか絵里奈は来れるっしょ? そのまま海水浴してもいいし! あ、雪妃は名和くんの傍にいるんだよね?」


 なんとも強引なものである。


 灰谷さんと冴島さんは微妙に渋り顔を作るのだが、武藤さんが急かし、結局そっちの方へ足を運ぶしかなくなってた。


『帰ったら絶対アタシにチャット履歴見せること!』


 そんなことを言いたげに、残る俺とゆぅちゃんを見つめながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る