第46話 あり得ないくらい青春してる

 ――ピロリン♪


 なんというタイミングか。


 風呂から上がり、さっぱりして自室に入った途端、待ってましたと言わんばかりに机の上に置いていたスマホが鳴った。


 あれはLIMEの着信音だ。


 離島に冴島さんたちと一緒に行くって約束してしまったからな。嫌な予感しかしない。


 恐る恐るスマホに近付き、画面を確認。


「……やっぱりですか……」


 ついため息をついてしまう。


 画面には、顔文字多めのかなりハイテンションなメッセージが並んでた。


 えーっと、何々?





絵里奈:『聡里きゅん! 離島に行く日、正式に決定したよ! 七月の末! 二十八日から八月の頭くらいまで行こー!』





 七月の二十八日から八月の頭まで、か。


 叶うならその八月頭ってのも具体的な日にちを提示して欲しいんだけどな。


 一応、教えてくれてありがとうってメッセージと、具体的な日にちがわからないか聞いてみる。


 既読はすぐに付いた。





絵里奈:『んー、そこは何日まででもよくない? 服もおじいちゃんちで洗濯していいみたいだし、寝泊まりも離れのスペアハウスみたなところで何日でもしていいらしいから! あ、もちろん掃除はするようにってのも言われたけど!』





 えぇ……何日もって……。だいたい、そのスペアハウスってなんだ……?


 疑問をそのままメッセージにする。返信はすぐに来た。





絵里奈:『小屋をすごく綺麗にしたバージョン、みたいな感じ! 写真もらったんだけど、見る? 送るね!』





 メッセージの通り、すぐに冴島さんからスペアハウスの写真が送られてくる。


 これは……え? なにこれ? 家じゃん。





絵里奈:『すごいよね! ここ全部使っていいんだって! ワンルームを超広くした感じ!』





 本当だ。その通り。すごい。ここを自由に使っていいってマジですか。


 灰谷さんのおじいさん、実は結構お金持ちだったりするのかもしれない。漁師ってどれくらい稼げるのか全然想像つかないんだけど。





絵里奈:『まーさ! そういうわけだから、だいたい八月の三日くらいって考えてればいいと思うよ! あんまり長く滞在するつもりもないし、かといって短すぎるのも退屈だからね! 一週間くらい!』





 充分長いなぁ……。


 夏期講習が終わってすぐとはいえ、ちょっと張り切り過ぎだ。元気良すぎるよ、冴島さんたち。





絵里奈:『その間に、美海たちの話も聞いてあげて。ちょっと困ってることあるみたいだし。聡里くん聞き上手だからさ』





 困ってること?


 何だそれ。面倒ごとならなるべく首は突っ込みたくないけど。


 てか今気付いたけど、冴島さん俺を下の名前で呼んでるし。ゴタゴタ以降少し封印してたのに。


「ま、いっか」


 独り言ち、『わかりました』とメッセージを送り、スタンプも付けておいた。


 その後、冴島さんとのやり取りを終えた直後にゆぅちゃんからメッセージが届いたんだけど、これがまたギョッとする内容だった。





雪妃:『さと君。明日、夏期講習の後、離島に持って行く水着選びに付き合ってくれないかな?』





 なんということだろう。


 彼女の水着選びイベント来ました。


 思わず頓狂な声を上げ、隣の部屋にいた妹の千早から心配される俺だった。






●〇●〇●〇●〇●






 翌日。


 約束した通り、午前中のみの夏期講習が終わってすぐ、俺とゆぅちゃんは校門を出た場所にある、大きい看板の下に集合した。


 冴島さんには言ってない。


――絵里奈に見つからないように、こっそり行こ?


 そうやって言われてたからな。彼女の命令をしっかり聞き入れ、俺は夏期講習が終わった瞬間にこっそり教室を出た。集合場所へは先に着き、後からゆぅちゃんが来るのを待ってた形だ。


「お待たせ、さと君。ごめんね、わざわざこんなことさせて」


 急いで来たからか、少し息を切らしながら謝るゆぅちゃん。


 この暑さだ。汗もかいてる。何か水分補給をした方がいいかもしれない。


「全然大丈夫。けど、やっぱり暑いね。何か飲む? すぐそこに自販機あるから、俺奢るよ?」


「あっ。う、ううん。大丈夫。ここでゆっくりしてたら絵里奈たちに見つかっちゃうかもしれないし、行こう? 涼んだり、水分補給するのは、ショッピングモールに着いてからでいいし、私」


 なるほど、だ。


 まあ、本人がそう言うなら大丈夫だろう。


 確かにここでゆっくりしてたら冴島さんたちに見つかりかねない。


 今日は二人きりでデートしようって話だったもんな。うん。


「オーケー、了解。でも、くらくらしたりしたら言って? 熱中症も最近は増えてるみたいだし」


 俺が言うと、彼女は頷き、


「ありがと、さと君。優しいね、やっぱり」


 にこりと笑みながら返してくれた。


 その微笑みは、セミの鳴き声と同化して、どうしようもないくらいに俺へ青春を感じさせてくれた。


 夏、真っ盛り。


 彼女。制服デート。水着選び。


 俺は今、あり得ないくらい青春してる。


 本当、少し前までは考えられないほどに。

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