第69話陰謀説

 陰謀説というものは何処にでもある。

 全く関係ないものでも人は陰謀説が好きだ。

 例えそれが突飛な内容であったとしても。


 だからこれは必然だったのかもしれない。

 

 アホな電波女の背後には枢機卿団がいた、という陰謀説。それが語られているのは。

 到底ありえない話……ではないことが彼らの恐ろしいところだったりする。

 しかも噂の出所が、貴族。


 一体何処の貴族?

 どこの国の貴族?

 

 謎が謎を呼ぶ。

 誰が言い出したのかは定かではないものの、それが貴族の間でまことしやかに囁かれるようになった。


 

「自業自得だね」


 ゴールド枢機卿は笑う。

 彼曰く、長い年月で積み重ねられたイメージはそう簡単には変わらない、だそうだ。

 まぁ、良い噂はあまり聞かない。

 一般市民は雲の上の存在過ぎて知らないけれども、王侯貴族と神官は違う。ついでに言うと聖女も。


 聖女が一番枢機卿団との関係が希薄だった。

 意外かもしれないけれど、聖女と枢機卿団の繋がりはさほどない。

 一生に数回会うかどうかの代物。

 会って話すをすることなんてない。良くて挨拶程度。


 聖女は神官を通して枢機卿団に連絡や報告がなされる。


 昔は違ったようだけど、いつの間にかそうなっていたらしい。



「ちょっと前に枢機卿団に使い潰された聖女がいたからね。そのせいだよ」


「そんな話、聞いたことありませんが?」


「ま、あの連中が自分達の失態を公にする訳ない。隠蔽されたんだよ」


「……」


 ゴールド枢機卿は権力闘争には興味はない。

 はっきり「嫌いだから」と言い切った。

 それはどっち?とは聞かなかった。聞けなかった。

 たぶん枢機卿団のほうだろう。

 

 枢機卿にしては珍しく苦々しそうな表情だった。

 きっと何かあるのだろう。

 彼らの闇は深い。


「フランも彼らのは気を付けるんだよ」


 その言葉に素直に頷いた。

 ゴールド枢機卿との付き合いは長い。

 彼の忠告は素直に聞くのが一番だ。

 

 だって間違っていないのだから。

 だから何か裏があるとか、そういうことは考えちゃ駄目。


 知らぬが仏。

 雉も鳴かずば撃たれまい。


「それで?フランは何か用事だったのかな?」


「そうでした。実は……カタリナから手紙が届きまして」


「カタリナ、から?」


 ゴールド枢機卿は不思議そうに首を傾げた。


「フランは彼女と連絡を取っていたのかい?」


「ええ。とは言ってもカタリナから定期的に連絡が来るだけですけど。彼女からしたら報告も兼ねて、と思っているのかもしれませんね。なにしろ、定住することなく各地を移動してますから」


「ああ、なるほど。それはあるかもしれないね」


 カタリナは旅する聖女。

 元々、治癒の力が使える彼女は、聖女としての巡礼の旅を続けている。表向きは。

 実際は各地を回りながら治癒師としての腕を振るっている。

 薬学の才もあるので、薬師としての顔も持っていた。


 国に居る時は城に滞在している。

 本人は「恐れおおい」と辞退していたけれど、強引に滞在させているのだ。彼女の立場的にもその方が守りやすいというのもあるし、牽制にもなる。

 カタリナは訳ありの聖女なので。


「それで手紙にはなんと?」


「それが……、ちょっと厄介な事件に巻き込まれてしまったと」


「厄介?」


 首を傾げるゴールド枢機卿に私は手紙を渡す。

 彼は目を通して、そして眉を寄せた。


「これは……かなりまずくないかな」


「ですよね……」


 私は頷く。

 というか、まずいよね。

 だって、これは。


「痴情の縺れ?陰謀?聖女候補かもしれない令嬢が行方知れず?……なにこれ?」


 要点がまとまっていない。

 たぶん本人もよく分かっていない。

 一気に物事が動いて、対処できないと言うべきだろうか。

 それとも全てが終わった後に知ったので、どう書けばいいのか分からなかったのか。


「これは……、カタリナの手に負える案件じゃないね」


「はい。なので、ゴールド枢機卿にご相談をと思いまして」


「それは構わないけど……」


 彼は少し考え込んでから言う。


「その令嬢はカタリナの知り合い?」


「たぶん」


「ふうん」


 ゴールド枢機卿は更に考え込む。


「とりあえず、行ってみる?」

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