第68話異世界人

 勇者の処刑。

 それも内乱罪。

 

 耳を疑うような話だった。

 表向きの理由は「病死」。


 毒杯を賜ったのでしょうか?


 この疑問に答えたのは当然、あの人。


「違うよ」


 ゴールド枢機卿は、キッパリと否定した。


「なら絞首刑ですか?」


「それも違う」


「相手は異世界人だからね。研究対象だよ。解剖されるか薬漬けにでもされているんじゃないの」


 笑いながら言われた内容に苦笑いするしかなかった。

 生死は不明というのが正しい気がする。死んでいても体を切り刻まれて、解剖されている可能性もある。


 本当にとんでもないことをやらかしてくれたものだわ。


 処罰される寸前まで「私はこの世界のヒロイン」と叫んでいたらしい。


 この世界のヒロイン……ね。


 ただの電波女か、それとも……。

 私が生きていることからして既に本来の世界線からズレてしまっている。あくまで本来は、だけど……ね。

 もしかすると私が知らないだけで続編があったのかもしれない。それか、別の世界線と結ばれてしまったのか。

 あくまでも可能性の話。

 根拠は全くない。


 なにはともあれ、世界の憂いが取り除かれたことは確かだった。

 異世界人がアホなことをしでかさなければ。

 勇樹さんは大丈夫でしょう。他の人達も死刑された自称ヒロインのようにならなければいいのだけれど。

 おそらく、彼らのほうにも話は行っているはず。

 彼女のようにならないように用心して欲しいものだわ。

 まぁ、電波女はそうそういないでしょう。


 召喚された仲間が処刑されたせいか、それとも彼女だけが異質だったのか、他の異世界人は特に問題を起こす行動はしなかった。


 長命で老いるのが遅いということ以外は普通の人間と同じだった。

 アホは一人だけ。

 他の異世界人は真っ当な人間。

 天寿をまっとうした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る