第15話商人の息子視点3


 エバは「王命」で廃嫡され無一文となった元王太子との婚姻を命じられた。

 何故か嫌がった彼女だったが新しい男爵となった兄には逆らえなかったようだ。最も、逆らえば反逆罪で即死刑だ。


 結局、エバはキュリー男爵領に護送されてきた元王太子と結婚した。それ以外に方法はない。男爵家が国王に逆らえる力など有るはずもない。新男爵が用意した小さな一軒家。それなりの広さの農地付きという破格の扱いだ。


「一応、元王太子を婿にしたんだ。それなりの扱いをしなければならなかったんだろうよ」


 珍しく煙草を吸いながら顔を顰めている父親の発言は少し疑問に思った。


「使用人はいないと聞いたけど?」


「そりゃそうだ。働くこともできないんだ。使用人を雇う必要性はないと判断したんだろう」


「王家は許可してるのか?」


「廃嫡した元王太子に価値なんかあるものか!」


 流石にそれは言い過ぎじゃあないか?

 仮にも王族だ。もう違うけど。でも考えようによっては使い道はある。


「元王太子でも王家に血を持ってんだ。子供でもできたら……」


「ジャン……お前意外に青かったんだな」


「は?」


「王家や貴族がそんな甘いものか!とっくに子供ができないように処置されているはずだ」


「……え?」


「なんだ、その顔は。まさかと思うが、エバと元王太子に子供ができたら男爵家にとっても貴種を得られた何て考えているんじゃないだろうな」


 考えてました。

 思ってました。

 だって腐っても王族。

 その血は本物だ。

 歴史を紐解けば亡国の王族の貴種を取り込んで成功した例は枚挙に暇がない。

 

「もし、仮にだが。万が一にも、エバと元王太子の間に子供が生まれたとするぞ。それが男子であればどうなるかわかるか?」

 

「……王子が生まれる?」


「阿呆か! 廃嫡されて平民になった男の子供だぞ!? 処刑されるのが落ちだ」

 

「……」

 

「女児であっても同じことだ。貴族共の思惑もある。元王太子の血を継ぐ子供を王家に迎えたいと考える連中もいるだろう。そうすると、エバとその子供が邪魔になるわけだ。結果、殺される運命にある」

 

「……嘘だろ?」

 

「まぁそういう可能性が高いって話だ。いいか、王族や貴族を甘く考えるな。彼らを本気で怒らせたら俺達平民何て直ぐに消されちまう。どんなに下の貴族でも不祥事を起こした身内に掛ける情けなどないって反応をする。薄情だと思うか?思うならそうなのかもしれないな。ただ俺はそうは思わん。俺だって商人だ。店と従業員を守る気持ちはある。規模は小さいがそういうことだ」


 そう言って父親は自嘲気味に笑った。

 

「だからエバのことはあまり気に病むな。あの子は元々頭のネジが外れた奴だった。それが今回の件で完全に外れてしまったんだ。同情する必要はない。むしろ不幸中の幸いだったんだよ」


 父親の言葉を聞きながら俺は頷く事しかできなかった。



 三年後、俺は結婚した。

 相手は母親の紹介だ。

 エバの時と違って本家本元の貴族令嬢。ただし没落寸前の貧乏貴族ってオチ付きだ。

 家を援助するという条件での結婚。

 ああ、ついに事になったか。と思った。


 母曰く「よりはいいでしょう?」だそうだ。

 確かにそうだ。


 エバほどの美貌ではないものの彼女にはない気品があった。所作が上品だ。一級品の女は見かけだけじゃないことを実感した瞬間だった。



 


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