第5話国王視点3

「だんまりですか。自分が不利になれば黙ってしまう癖は昔から変わりませんね。半年も前に病に倒れた婚約者に見舞いの手紙一つ寄こさなかっただけの事はあります」


「し、知らなかったのだ!」


 はっ?!

 知らない?

 そんなはずは無いだろう!!

 説明したではないか!!

 一体何を聞いていたんだ!!!


「はははっ。殿下は本当に面白い事を仰る。知らなかった筈はありませんよ。学園で休学届を出していましたし、妃教育も休ませていました。王宮内でも見掛けなかったでしょう?茶会などの交流も延期になっていました。不思議に思わなかったのですか?」


「そ、それは……」


「ああ、そこの庶子と楽しく過ごしていたので忘れてしまったのでしょう。婚約者の義務としての登下校の迎えの馬車も月ごとの贈り物もこの半年まったくありませんでしたから。こちらとしては説明を受けていたのでなかったのだと判断していましたが、実際は只単にと過ごすのに忙しかっただけだったとは」


 公爵の言葉にクロードは言い返せない様子だ。

 図星を差された顔だな。情けない。せめて表情くらい取り繕え。


「し、知らない……しらない……なにも……しらない……っ」


「自分は何も知らない、と言えば許されると思ったら大間違いですよ!不貞して、婚約者を貶めておきながら婚約破棄ですって?!裏を取ることなく女の色香に惑わされるなどバカバカしい!王太子教育は一体どうなっているの?」


 汚物を見るかのようにクロードを見る姉上の目の奥には例えようもない怒りがにじみ出ていた。昔から大の苦手である伯母の言葉に、クロードの精神は限界だったのだろう。むせび泣き始めた。


「姉上、本当に申し訳ない。フランソワーズ「誰が呼び捨てにしていいと言いました?貴方は加害者の父親でしょう!」……モンティーヌ公爵令嬢との婚約は白紙にする」


「当然です!こんな愚者の婚約者だなんてフランソワーズが後世に何と呼ばれるか分かったものでは無いわ!!」


「償いとして「そんなものは結構!」…………いや、そう言う訳にはいかない。姉上たちが良くても……」


「王家の信用問題に関わるとでもいう気なの?バカらしい。それこそ、とっくに無くしてますでしょ!今更取り繕ったところで意味など無いわ!!」


 その通りだ。

 しかし一部の貴族と民衆は未だに勘違いをしたままだ。

 男爵家の庶子のせいでフランソワーズは悪評をばら撒かれている上に、クロードが肯定するかのように宣言してしまった。王都民たちはクロードの不貞を「純愛」だと言い、吟遊詩人達が挙って歌っている。そのせいで脚色されたフランソワーズは「悪役令嬢」と蔑まれた通り名が付いてしまった。



「婚約の白紙は当然だけれど、私の娘に掛けられたあらぬ疑いはきちんと訂正してくれるのでしょうね?」


「勿論です」


「それと、王妃は何処?」


「アメリーは今回の件がショックで寝込んでしまって……」


「寝込むねぇ。自分の都合が悪くなると寝込む癖は昔から変わらないわ。王太子はどうやら王妃に中身が似てしまったみたいね」


「姉上……」


 きつい。

 覚悟はしていたが姉上の毒舌は嫁いだ後も健在だ。クロードだけではない。王妃も姉上が苦手なのだ。この国で最も高貴な女性は王妃ではない。姉上である事にも王妃は気を悪くしている。そのせいか、昔から折り合いが良くない。


 王妃とはいえ、侯爵家の出身。

 王妃腹の、それも大国の王女であった王妃の娘である姉上には勝てない。


 


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