悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

【本編】

第1話公爵令嬢の死1

「お父様、お母様、お兄様……ごめんなさい」


 先立つ不孝をどうか許してください。

 

 私、フランソワーズ・ド・モンティーヌはロベール王国の筆頭公爵家に生まれてきて幸せでした。

 

 有り余る富と権力。

 王国一の血統。

 美貌と才知。

 肥沃な領地。

 善良な領民。

 

 優しく厳しいお父様。

 誇り高く美しいお母様。

 穏やかで優秀なお兄様。



 フランソワーズは皆から愛されて幸せでした。


 ああ、唯一の気がかりは婚約者のこと。

 婚約者のクロード王太子殿下とは学園に入学してから疎遠になってしまいました。それを思うと大変心苦しいです。友人の手紙では何でも男爵令嬢と噂になっているとか。

 ご本人達は「真実の愛」だと宣っていらっしゃると友人達は憤慨していました。

 それはそうでしょう。

 愛だと申しても、殿下のなさっている事は「浮気」ですもの。きちんと教育を受けた常識ある方々が眉を顰めるのも当然です。

 

 その男爵令嬢が学園内で酷い虐めにあっていらっしゃるとか。

 


 ――廊下で足を引っかけられて転んでしまった。


 周囲には誰もいなかったようですが何故か男爵令嬢は「フランソワーズ様がわざと足を引っかけてきたの!」と潤んだ目で訴えたそうです。


 ――祖母の形見のブローチが盗まれた。


 男爵令嬢は「フランソワーズ様に取り上げられてしまったの!」と悲しみに満ちた顔でを買ったようです。


 ――中庭の噴水に突き飛ばされた。


 授業時間。人気のない中庭に何故いたのか疑問ですが、男爵令嬢は「ふ、フランソワーズ様に突き飛ばされてしまって。あ、あたしが気に入らないって。庶子風情がクロードと仲よくするのは許されないって……」とずぶ濡れになりながら婚約者持ちの男子生徒に抱きついたそうです。因みにその男子生徒はクロード殿下ではありません。殿下の側近、宰相の御子息です。

 友人の手紙にはその時の彼は鼻の下を伸ばしていたらしいですわ。

 全身ずぶ濡れ状態の女子生徒に抱きつかれたのですから無理もありません。ブラウスは透けた状態で、肌着がうっすらと……。スカートは水浸しで張り付いてしまっていて体のラインがはっきりとわかってしまう状態なのですから。



 ――階段から落とされた。


 放課後の下校時刻。校舎二階の階段踊り場にて男爵令嬢は階段を降りようとしていたところ、突然後ろから誰かに背中を強く押されたのだそうです。ただ、下校の時間内でも男爵令嬢は補講をしていたらしく、目撃者は皆無。しかもその階段は普段は使われないものでした。何故、わざわざそんな階段を使用したのか分かりませんが、男爵令嬢は次の日に「フランソワーズ様に階段から突き落とされたわ。彼女はあたしを殺そうとしているのよ!」と主張したそうです。



 それが本当だとしたら大変なスキャンダルです。

 王立学園で犯罪行為が行われたのですから。


 もっとも、別の意味で大スキャンダルとなりました。


 



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