第52話 鷹見輝
突然現れた金髪の男は、まるで鬼のような形相で俺に話しかけてきた。
だが、俺には心当たりがない。
ギルド内の空気が一瞬で緊張に包まれる中、俺は眉をひそめて言葉を返した。
「誰かは知らんが、俺に何か用か?」
「っ」
その言葉を聞いた途端、男はプルプルと震え始めた。
そんな男を見て、俺は内心で首を傾げる。
(なんだこいつ、怒ってるのか? それとも……)
よく分からない状況の中、男は震える声で自己紹介を始めた。
「僕の名前は
鷹見 輝。
残念ながら聞いたことのない名前だ。
俺が困惑した表情を浮かべていると、鷹見は更に声を荒げた。
「つい先日、ソロで中級ダンジョンのボスを討伐した! それも探索者になってからたった一年で! 日本ランキングの3位に名前を残すほどの記録だ!」
……ふむ。
今だに状況はよく分からないが、中級ダンジョンのボスはレベル100前後。
そんなモンスターをソロで倒したというのなら、確かにかなりの実力だ。
「ランキング1位の更新は叶わなかったとはいえ、僕は注目を浴びるべきだった。レベルも100を超え、鳴り物入りで上級探索者になるはずだったんだ!」
鷹見の顔が歪む。
その目には怒りと悔しさが混ざっているように見えた。
「だが、その計画は覆された。ある一人の男によって――それがお前だ、神蔵蓮夜! ここ数日、探索者界隈の話題はお前に関すること一色だ。そのせいで僕の偉業が薄れ、誰からも注目されなかった! こんなこと、納得いくものか!」
鷹見の怒りは頂点に達したようだ。
奴は俺に向かって指を突き付けながら叫ぶ。
「ゆえに僕は、お前に決闘を申し込む! 物珍しさで注目を浴びているだけの奴とは違う、本物の実力を見せつけてやる!」
シーン、とギルド内が静まり返る。
誰もが息を呑む中、真っ先に反応したのは、意外にも俺の隣にいた雫だった。
「そんな、無茶苦茶です! 事情は分かりましたが、そもそも蓮夜さんのせいじゃないですし逆恨みにもほどがあります! こんな申し出、受け入れる必要はありませんよ、蓮夜さん!」
雫の言葉に、周囲からもざわめきが起こる。
確かに、彼女の言う通りだ。
だが、俺の中では既に決断が下されていた。
「いいよ」
「ほら、蓮夜さんもこう言って――って、ええっ!?」
雫が驚きの声を上げる。その横で、俺は静かに思考を巡らせていた。
(ちょうど俺のレベルも70に到達し、中級ダンジョンのボスに挑むには良い頃合いだ。その試金石として、既に突破済みの鷹見と戦えるのはありがたい)
そして、何より――
「俺が戦いを挑まれて断るなど、それこそあり得ん」
いつかの先輩冒険者(名前は忘れた)と戦ったことを思い出しながら告げた俺の言葉に、ギルド内が再び静まり返る。
俺は鷹見に向き直り、はっきりとした口調で言った。
「と、言うことだ。お望み通り、お前の申し出に乗ってやる」
「ふんっ、それでこそだ! お前を完膚なきまでに叩きのめし、その話題を全てかっさらってやる!」
こんな流れで、俺と鷹見は決闘することになるのだった。
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